FREAK OUT | ナノ


雑居ビル一つを買い取った第四支部と異なり、第五支部は一から建築された正真正銘の新設事務所だ。

縦よりも横に広い四階建て構造で、見た目はオフィスというより、役所に近い。
第五支部は一般市民の相談窓口を設けている為、民間人が立ち入り易いようにと、玄関口は大きく作られており、バリアフリーの為にとなだらかなスロープも用意されている。
加えて、入口付近には躑躅の低木や、近隣の小学校の児童達が作った平和祈願の花畑。更に環境保全の為にと設置された緑のカーテンが一部の壁を覆い、目にも優しい。


――第四支部と比べると、顔が引き攣りそうなくらいの差が、中に入る前からひしひしと感じられる。

事務所内も、さぞ凄いことになっているのだろうなと唖然としながら外観を眺めていると、駐車場に車を停めてきた栄枝に「では、行きましょうか」と促された。


駐車場一つにしても、第四支部とは比べ物にならない。第四支部はビルの隣の空き地を利用して作られた僅かな土地を駐車場として使っている為、慈島の車と事務所用の公用車プラス一台入る程度の規模しかないというのに。第五支部の駐車場は二十台前後停められる広さを有している。臨時の際、市民の避難所として活用出来るようにと配慮されてのことらしい。

愛は、此処の建設費用の一割でも、第四支部の改装に回してくれてよかったのではないかと思いながら、栄枝の後ろに続いて足を進めた。
すると、玄関口の方から一人の男が此方に気付くや否や、歩み寄ってきたので、愛は思わず顔を強張らせた。
というのも、男の容姿がはっきり言って、カタギのそれではなかったからだ。

慈島や徳倉と殆ど変わらぬ体躯に、短く刈った黒髪。それだけなら、FREAK OUTによくいるタイプの人で済ませられたのだが、小動物くらいなら視線一つで射殺せそうな強面に、額や顎に奔る傷痕が、凄まじい威圧感を放ってきて。愛は、もしかしてこの立派な事務所を建てる為に所長は借金を――と考えてしまったのだが。


「ただいま戻りました、鬼怒川さん」

「お帰りなさいませ、所長。ご苦労様でした」


当然そんなことは無く、男は此処の所員であった。
丁寧に腰を折り、栄枝を出迎えた男――名前は、鬼怒川というらしい――は、頭を上げるや、愛に視線を向け、幾らか表情を強張らせてきた。

ただ注視しただけとも言えるのだが、睨まれているようにも思えて、愛は思わず身を縮こまらせながら「こ、こんにちは……」とぎこちなく挨拶をした。

男が此処の所員であるのなら、今日から世話になる上司に違いあるまい。
ならば、第一印象は良くしておかなければと愛は精一杯愛想の良い笑みを浮かべてみたのだが、鬼怒川は少しも微笑み返すことなく、栄枝の方に顔を向ける。


「……彼女が、例の」

「はい。今日から私達と共に戦う、真峰愛さんです」


どうやら、自分が真峰愛かどうかを窺っていただけのことらしい。
栄枝の返答を聞くと、鬼怒川は少しばかし眉の皺を緩め、ぬっと大きな手を伸ばしてきた。


「……副所長の、鬼怒川友禅(きぬがわ・ゆうぜん)だ」

「ま……真峰愛、です。よろしくお願いします」


がしっと手が持っていかれそうなくらい強い握手には、一応、今後よろしくという意味合いがあると見ていいだろう。
栄枝もウンウンと嬉しそうに頷いていることだし、きちんと挨拶出来たのだなと、愛が人知れず胸を撫で下ろすと、改めてと、栄枝が鬼怒川を紹介してきた。


「もう既に聞いていると思いますが、うちの事務所には副所長が二人いるんです。一人めが此方の鬼怒川友禅さん。私の右腕として働いてくれてます」

「……恐縮です」


栄枝の言う通り、事前に耳にしていることだが、第五支部には副所長が二人いる。

インコを代理としている第四支部と比べると、また涙が出てくる話なのだが。
未だ若い栄枝をサポートする存在は多い方がいいだろうという上の意見に加え、栄枝自身が「色んな人の意見を聞きたい」と要望を出した為、彼女の所長就任と同時に、第五支部には二人の副所長が着任した。


一人目が、”聖女”の右腕。通称、”鬼”の鬼怒川。市内巡回や戦闘指揮の担当で、栄枝の意志を汲み、所員達を動かすのが彼の役割だ。

そして二人目が、”聖女”の左腕なのだが――。


「それで、もう一人は…………そういえば鬼怒川さん、彼岸崎さんは?」

「あの野郎は、市長のところです。また勝手に警備契約だなんだやってるんでしょう」


事務や経理、外務等の担当で、第五支部が吾丹場で活動し易いよう動いているのが、二人目の副所長、彼岸崎明親(ひがんさき・あけちか)。
吾丹場市長の元に赴いている為、現在留守にしているらしいが、鬼怒川の口振りからして、普段からあまり第五支部にいるようではないらしい。

そのせいかどうかは不明だが、鬼怒川は彼岸崎をあまり良く思っていないとも受け取れる。
忌々しげなその表情とか、物言いとか。鬼怒川は割と露骨に嫌悪感を出しているが、栄枝は心底残念そうに眉を下げ、がっかりとした様子だ。


「そうですか……。では、彼岸崎さんは戻られたらご紹介しますね」


困り顔で笑いながらそう言うと、栄枝は半歩下がって体の角度を変え、愛を扉の中へと誘うように腕をスッと流した。

それに合せ、鬼怒川も扉の正面を見せるように立ち位置を直し、やがて第五支部の入口が、愛を迎える。


「さぁ、どうぞ。中に入ってください」


不安さえ飲み込むような期待感を現したかのような、大きな事務所。大きな玄関。

此処から、吾丹場での生活が、FREAK OUT第五支部所員としての日々が始まるのだと、肌がざわめくような昂揚感に胸を震わせながら、愛はニッコリと微笑む栄枝に促されるがまま、踏み出した。


「FREAK OUT第五支部・栄枝事務所は、貴方を歓迎します。”新たな英雄”、真峰愛さん」


prev next

back









×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -