モノツキ | ナノ


「おい火縄?!てめぇ、生きてんのかああ?!おい!!」


現在から三日前の夜。昼行灯達がカミヤマ・フミの自宅を焼く計画を実行していた頃。
火縄ガンはすすぎあらいに代わって、この近辺をゴルフ場に開発する為の人払いの仕事を請けていた。
シグナルはそんな彼女の送迎役として運び屋の仕事をしていたのだが、翌日の朝。
一日経っても連絡のない彼女を不審に思い、本社から仕事場である開発予定地へと向かう途中のこの杉林で、血だらけで倒れている火縄ガンを発見した。

ハルイチを上手く騙くらかし、一段落ついていたところにその凶報を受けた昼行灯達は、
まず依頼人にトラブルが起こったことの連絡とその謝罪に奔ることになり、次いで彼女の身に何が起こったのかという調査へと入っていた。

当人に聞くのが一番早いことには違いないのだが、その火縄ガンは意識不明の重体。
よって、こうして昼行灯達はわざわざ現場まで足を運ぶことになっていた。
意識が戻ったからといって直ぐに話せる状態になるということもないだろうし、足労は無駄にはならないだろう。

昼行灯達は痛ましい痕跡の残る杉の木を見ながら、一体此処で何が起こったのかと林道の沈黙を噛み締めた。その時だった。


「社長、」


ざくざく、後方から近付く足音に顔を向ければ、コウヤマ・フミノリの件で働いた分寝て過ごすつもりが、思わぬ事件の勃発により惰眠を貪ってもいられず。
自分が本来請け負う予定だった仕事へと向かっていたすすぎあらいの姿が見えた。

その体はいつも通り、汚れたところで構うことのないジャージ姿なのだが。
仕事戻りであれば血を吸ってじっとりとしているそれに、何処にも目立った汚れがないことに、昼行灯達は少しばかし吃驚した。

仕事に向かって三十分もしていない内にすすぎあらいが合流してきた時点で、
彼等の頭には何らかの異常事態があったなと警報が鳴っていた。

よって、彼のジャージが清潔とまではいかずとも綺麗なことは、想定の範囲内と言えば想定の範囲内のことで、そこまで驚きようのない話だった。
ただ、もう仕事が済んだのかという考えが消えて、それで少し驚いただけのことである。
ともあれ、すすぎあらいは仕事をせずに戻ってきた。

また嫌な予感がする、と昼行灯は汗ばんだ首元に空気を入れようとネクタイを緩めた。


「どうしました、すすぎあらい。人払いの方は…」

「断られた」


すすぎあらいは無駄足を踏まされたと、心底疲れたような溜め息を吐きながら、眼を見開いているのだろう一同の為に続けた。

随分此処の開発に御執心で、故に自分達のような裏の者を雇ってきたクライアントが、
依頼を取り下げたことに今度こそ驚きを隠せないのだろう。
不穏な空気を纏う一同の、先を要求する視線の筵にされながら、すすぎあらいはぼりぼりと首を掻いた。


「うちの信頼無くした訳じゃないけど、向こうさん…反対派が怖いから、此処から手を引くって言ってさ」

「…反対派が?」


昼行灯が信じられないと言いたげな声を上げた。

そもそも自分達が雇われたのは、その反対派を淘汰する為で。
本来依頼人に降りかかる驚異は、全て此方が請け負うことになっているというのに、何故恐ろしいなどという理由で、利益の大きいゴルフ場開発を諦めてしまうのか。

サカナとシグナルも解さないと首を捻る中、真相が紐解かれていく。


「ゴルフ場開発の推進派である依頼人達が俺達を雇ったように、反対派も対抗すべく人を雇ったそうだ」

「人、ですって…?」


すすぎあらいは血の匂いが染みた杉の木を一瞥すると、ごうんと僅かに洗濯機を鳴らした。


――その音を聴く時は、大抵何かよくないことが起こる気がする。


サカナは水槽の中の熱帯魚を灰色にして、ぎゅうと手を握り固めた。

それから間もなくだった。ポケットに捩じ込まれた携帯が、再び大声を上げたのは。


「はい、もしもし………」


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