プロローグ
「あー…腹減ったあー…」
ぐるると腹の虫が鳴った。ここ数日、何も口にしていない。この際そこらへんの女にでもカブりついてやろうかと思ったけれど、捕まりたくはないからそれは我慢だ。
そう、俺は俗にいう吸血鬼なのだ。だからヒトの食い物を食べたところで根本的な空腹感は満たされない。まったくイライラが募るばかりである
「クソ…どこ行ったんだよあの色男…」
建物の上からある人物を探す。その人物とはもちろん血を吸わせてくれるニンゲンだ。ニンゲンと言っても吸血鬼界では血が美味だと噂されるクルスニク一族の野郎。確かに濃厚で旨い。
しかし数日前、奴は突然帰ってこなくなった。思い返せば奴の女もガキもいなくなった。
「ん…この匂い……あ、クソ餓鬼!」
そのとき、ぴくっと俺の本能が反応する。なんとそこにはあの色男のガキ、エルがいたのだ。どうやらトリグラフとやらに来て正解だったらしい。これは手掛かりになると心騒いだ俺は、直ぐさま屋根から飛び下りて、ガキの元へと走ったのだった───
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