▽9日



行きつけの本屋、大きさはそこそこ。テツヤが言うにはここの本屋は品揃えがいいらしい。そして不意に前を歩いていた彼が店の前で立ち止まった。


「っと…テツヤ?」


「黒子です。苗字くん、絶対に呼ばないでください。今日は刺客がいるみたいなので」


「刺客?」


じっ―とどこかを見つめているテツヤの視線を追った。特に変わりはない。でかい奴ならいるけれど


「……あの緑の人?」


「当たりです」


ということは中学時代の友人だ。緑、緑って、あ、緑間真太郎くんだな。話を聞いていて赤い人並に衝撃を受けたから名前は覚えている。真太郎…ぽいな。


「苗字くん、やっぱり他で暇をつぶしていてください。彼は鋭い。すぐ戻りますから」


「え、俺もみたいのある」


「でも、」


「テツヤと一緒に行動しなきゃ大丈夫だろ」


「黒子です。そうですけど…」


「大丈夫、ゆっくりでいいよ。焦って間違ったりしたら大変だ。あとでちゃんとデートするから」


「………わかりました」


あ、照れた。
ちゅーしたいけど我慢だな。


そしてそれぞれ用事があるコーナーへと足を運ぶ。俺は雑誌だ、サッカーの。しかも、


「あ、キセリョ」


目当ての雑誌を何故か彼が表紙を飾っていた。なにやら特集されているようだ。人気だな。とりあえず目当ては目当てなので手にとってはらりと頁をめくる。そこには早速サッカーのユニフォームをきてポーズを決めている彼。一瞬何も見なかったように棚に戻そうとしたがやめた。今月はお気に入りの選手も特集されているのだ


「……今度はインタビューね」


そのまま数頁めくると記者との会談が印刷されていた。興味もないので流すように文章を辿っていれば、ある言葉に神経が撫でられる。

‘黄瀬君はバスケをしていますが、サッカーもできると聞きました!本当に素晴らしい運動神経ですね!’
‘いや〜そーでもないッスよ!詳しく言っちゃうとサッカーってコピーしやすいんスよね。それにバスケみたいに1対1の時間とか少ないし、読みやすいんス。やっぱバスケッス!ってサッカーの雑誌なのにスイマセン’


「……………」


「おい、」


「……………」


「おいお前」


「ん…?」


「買うのなら文句はないが、そんなに握りしめたら破れるのだよ」


すっ、と男にしては綺麗な指で俺の手元を指差した彼。やばい、ムカつきすぎて力入れすぎた。もう少しで弁償だったな助かった


「すいません、ちょっとムカついてて力加減間違えました。ありがとうございます」


「いや、かまわん。俺もあまり好きではないからな。認めてはいるがバスケにおいても気に食わんやつなのだよ」

「…そうなんですかー」



あれ?


と思って俺の右隣りに立っている奴を見やる。片方の手にはウサギ、もう片方はちょうど眼鏡のブリッジを上げているところだった


あれ?


緑間真太郎っぽいぞ




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