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「やっぱり俺、琉依があいつに縛られてる気がするんだよ」
ぼんやり窓の外を見ていた琉依はその言葉の意味を図りかね、視線をゆっくりと達幸に向けると、訊き返した。
「……? 何のこと?」
達幸ははあ、と溜息をつき、頭を掻き毟る。
「お前が、綺依に縛られてるように見える」
言い直したが、琉依は困ったように眉根を寄せるばかり。
自分が綺依に縛られているという彼の言葉を頭の中で反芻してみても、理解ができなかった。
首を傾げつつ、達幸に答える。
「僕は綺依の言う通りじゃなくて、僕が思う通りにしてるだけだよ」
達幸は、琉依にぐっと詰め寄った。
琉依のこの答えを、彼はある程度予測していた。
その上で、必死に琉依の言葉を否定する。
「きっとお前は、自分で自分のことがわかってないんだよ。
自分の意思だって思い込んでるだけだ」
琉依の顔がみるみる険しくなる。
憶測で勝手に否定してくる達幸が、耐えられなかった。
琉依は机に身を乗り出してきていた彼の肩を、両手で突き放した。
「……なんで」
「えっ」
「なんでたっちゃんがそんなこと言えるの?
自分のことなのに、自分でわからないわけないでしょ?
たっちゃんは僕じゃないから、僕のことわかるはずないじゃん!
思い込んでるのはたっちゃんだよ!」
普段学校ではあまり声を荒らげることのない琉依の大きな声に、周りにいた生徒が驚き、注目が二人に集まる。
怒りを含んだ言葉を浴びせられた達幸は、驚きを通り越し、何も言い返せなかった。
黙ってしまった達幸に、琉依は続ける。
「わかったの、たっちゃんは綺依が嫌いなんでしょ。
僕を気遣うふりをして、綺依を悪者にしたいんでしょ」
「ちが……」
「じゃあ、僕がどんな風に考えてても、今よりちゃんと勉強してでも綺依と同じ大学に行きたいと思ってても、それはたっちゃんには関係ないじゃん。
何で僕が、自分のことがわかってないって言われなきゃいけないの」
達幸は自身を、高校生活で一番近くにいた、琉依の親友だと自負していた。
生まれてからずっと一緒にいる綺依には遠く及ばないかもしれないけれど、友達として、琉依のことはわかっていると思っていた。
達幸には時折、琉依の背後に綺依の姿が垣間見えるような気がしていた。
だから琉依を綺依から解放して自立させるのが、琉依のためだと思っていた。
「……俺はただ、琉依のことを思って」
ただ、琉依のためだけを思って。
しかし、琉依は拒絶する。
「僕のことを思って言ってくれてるなら、たっちゃんの思い込みを僕に押し付けないで」
勝手に思い込むだけならまだしも、それをこちらに押し付けられることが、とても不愉快だった。
しかも、彼の今までの言動の端々から、達幸が綺依を良く思っていないであろうことが琉依にもわかっていた。
綺依を悪く言われることも、琉依には許せない。
この展開までは予測できていなかった達幸は俯く琉依にかける言葉を探しあぐね、絞り出すようにたった一言
「ごめん……」
と謝った。
二人はそのまま沈黙し、彼らの間には不穏な空気が漂っていた。
いつも仲良くつるんでいる彼らの険悪なムードに、近くの生徒は声を潜め、遠巻きに二人を見る。
しばらく続く沈黙に耐えられなくなった達幸が、自分の席に戻ろうと腰を浮かせたタイミングで、職員室を訪ねていた綺依が戻ってきた。
見るからに不機嫌な琉依と、気まずそうな表情の達幸を交互に見て、短く尋ねる。
「何の用」
達幸はビクッと肩を震わせ、立ち上がった。
ぎこちない笑みを浮かべ、椅子の横に退く。
「あ、いや、用は済んだので……お邪魔しました……」
「ふうん」
すごすごと自席に戻る達幸を一瞥し、綺依は椅子に座る。
琉依の様子からして、達幸と喧嘩でもしたのか、琉依の気にくわないことがあったのは確かだろうと綺依は推し量る。
担任に話をしてきたことを琉依に伝えようかと思ったが、今の彼には何も言わない方が良さそうだと考え、残りの僅かな休み時間中、彼をそのままにしておいた。

>>続く


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