*三題噺/第一ボタン・体操服・果物

 少女は恋をしていた。

朝いつも、友達と会話しながら歩く彼の姿を見ながら登校している。

彼が笑うと、彼女も嬉しくなる。

彼の笑い方はとても綺麗だった。

そしてその笑顔がとても好きだった。


 ホームルームが終わると、決まって彼は先生に怒られる。


「第一ボタンを留めろと何度言ったら分かるんだ!」


「わぁかってますって」


そんな彼も好きだ。


「またみてるのー?好きだよね、ほんと。飽きないの?」


不意に話しかけられて驚いた。


「べ、別に好きとかじゃないしっ!」


「顔赤いよ〜」


「そんなことない!」


からかう友達を恨めしく思う。

自分でも顔が赤くなっているのは分かっているので、隠すように机の上に置いた体操服
に顔を埋めた。


 ある時彼女は彼に好きな食べ物を訊いた。

バレンタインデーも近い二月の初め。


「チョコとかくれたりするの?」


と、ふざけて言ってくれるのを期待して。


「好きな食べ物?えーと。乾いた果物とか?なんて言うんだっけ」


「ドライフルーツだろ、好きなんだったら覚えとけっての」


「そうそう、それ」


隣に居た彼の友達と笑い合っている。

結局期待通りには行かなかった。


 そしてバレンタインデーの日。

彼女はドライフルーツ入りのチョコを両手に、彼に話しかけた。


「これ、バレンタインだからっ。その、好きなの」


彼女が顔を上げると、彼は笑って受け取った。


「ありがと。好きだよ、俺も」


 彼と一緒に彼女も笑ったのだった。



---fin---


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