▼ *三題噺/第一ボタン・体操服・果物
少女は恋をしていた。
朝いつも、友達と会話しながら歩く彼の姿を見ながら登校している。
彼が笑うと、彼女も嬉しくなる。
彼の笑い方はとても綺麗だった。
そしてその笑顔がとても好きだった。
ホームルームが終わると、決まって彼は先生に怒られる。
「第一ボタンを留めろと何度言ったら分かるんだ!」
「わぁかってますって」
そんな彼も好きだ。
「またみてるのー?好きだよね、ほんと。飽きないの?」
不意に話しかけられて驚いた。
「べ、別に好きとかじゃないしっ!」
「顔赤いよ〜」
「そんなことない!」
からかう友達を恨めしく思う。
自分でも顔が赤くなっているのは分かっているので、隠すように机の上に置いた体操服
に顔を埋めた。
ある時彼女は彼に好きな食べ物を訊いた。
バレンタインデーも近い二月の初め。
「チョコとかくれたりするの?」
と、ふざけて言ってくれるのを期待して。
「好きな食べ物?えーと。乾いた果物とか?なんて言うんだっけ」
「ドライフルーツだろ、好きなんだったら覚えとけっての」
「そうそう、それ」
隣に居た彼の友達と笑い合っている。
結局期待通りには行かなかった。
そしてバレンタインデーの日。
彼女はドライフルーツ入りのチョコを両手に、彼に話しかけた。
「これ、バレンタインだからっ。その、好きなの」
彼女が顔を上げると、彼は笑って受け取った。
「ありがと。好きだよ、俺も」
彼と一緒に彼女も笑ったのだった。
---fin---
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