*無題01

そこに、君がいた。




 僕を嘲笑うかのように立っていた。





 僕は動けなかった。
ずっと立ちすくんでいた。




 そして君は体を後ろに倒した。
僕はやっぱり動けなかった。
声も出ず、息すら出来なかった。
あの時僕が動いていたら、叫んでいたら、君は―――死ななかったの?




 君が消えてからしばらくして、僕は動けるようになった。
恐る恐る君がいた場所から下を覗き込む。
君は歩道に赤い、赤い花を咲かせていた。
それも、笑いながら。
歩いている人は誰一人としていなかった。
君だけが花畑の中に居た。








あれから3年。
彼女が身を投げたビルは取り壊され、ただの更地になった。
彼女の自殺を、人々は忘れた。
けれど僕は鮮明に覚えている。
幾度となく自分を責めた。
どうしてあの時動けなかったのか、どうして叫べなかったのか。




なのに誰も僕のことを責めなかった。
みんな「あの子は精神的におかしかったから」と口をそろえていった。
彼女がおかしかった?
みんな彼女のことを分かっていない。
彼女はおかしくなんかない。
おかしくなんかないんだ。
何で誰も分からないのだろう。




赤い花畑と君。
真っ赤な花に囲まれて、君は幸せだったの?だから笑っていたの?
嗚呼、僕も彼女のことを分かっていない。
分かりたかった、僕は。君の事をもっと。
だからいつも傍に居たのに。
君は何も教えてくれなかった。







彼女の最後の言葉。
僕の胸に深く突き刺さっている。
心の奥を抉るこの杭は、一生抜けないのだろうか。
僕には分からないのだろうか。






「何故私が死ぬのか、それが分かったらあなたは私を理解したことになる。
でも、あなたはいつまでたっても分からないわ。誰にもわからないのよ」






---Fin---




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