双子誕生日SS

 8月28日。誕生花は桔梗で、花言葉は「変わらぬ恋」。


 この日、用事で学校に残る琉依を置いて、綺依は一人で家に帰った。家に着くと、真っ先に台所へ向かう。棚から小麦粉と砂糖、冷蔵庫から卵を取り出すと彼は何かを作り始めた。しばらくそうしていると、玄関から

「ただいま」

という声が聞こえた。綺依は反射的に手を止める。どうやら、帰ってきたのは伊村さんらしい。少し安心して、また作業を再開する。すると、綺依に気付いた伊村さんが台所に入ってきた。

「綺依くん、何やってるの?」

 声をかけられた綺依は、びくっと肩を震わせて振り返る。

「えっ……と、ケーキ作ってるんです」

 そう言って、生地の材料を混ぜているボウルを見せた。伊村さんは納得したように、頷く。

「そっか、今日は綺依くんと琉依くんの誕生日だね」

 そう、8月28日は彼と双子の弟の誕生日である。しかし、それを伊村さんが何故知っているのか、綺依は疑問に思った。

「誕生日、知ってたんですか?」

「うん、昨日お母さんが言ってたよ。あー、僕もケーキ買ってこればよかったよね。うっかりしてた」

 苦い顔をする伊村さん。そんな彼に「気にしないで下さい、ケーキは毎年俺が作ってるので」とフォローしながらも、母親から聞いた、ということが引っかかる綺依。思わず

「覚えてたんだ、誕生日……」

と呟く。それを聞いて伊村さんは、笑みを浮かべて綺依に言った。

「子どもの誕生日を、忘れる親は居ないよ」

 そんなものなのだろうか。今まで放っておいたのに? 綺依はそう思ったが、口には出さなかった。この人は、こうして時々親について諭してくれる。素直に聞き入れればいいのだろうが、疑心暗鬼になってしまってどうも上手くいかない。それは、仕方ないことなのかもしれないが。

「あ、そうだ。ケーキ焼くの手伝おうか? こう見えても、ケーキの飾りつけは得意なんだよ」

 伊村さんの申し出に、二つ返事で綺依は答えた。

「じゃあ、まずオーブンの設定お願いします」

 設定のしかたと温度を伝え、綺依はまた材料を混ぜることに集中した。



 そうして出来上がったのは、茶色いスポンジケーキに真っ白な生クリームの映えた、チョコレートケーキだった。初めはそこに苺を乗せるつもりだったのだが、伊村さんの提案で、オレンジと缶詰の黄桃に変えた。その方が、確かに苺よりも合っているかもしれない。例年以上のできばえに、綺依は素直に驚いた。

「こんなに綺麗にできたのは、亮さんのおかげです」

 伊村さんが「飾りつけが得意」と言ったのは事実らしい。そう思って、綺依は彼に感謝する。

「いやいや、僕はほとんど飾りつけしただけだから。やっぱり、料理って経験なんだね。綺依くんの手際の良さには感心したよ」

「調理実習でよく言われます」

 伊村さんの謙遜に、笑いながら冗談で返す綺依。そこには何のわだかまりも無く、仲の良い親子、いや友だちのように見えた。きっと他の人から見たら、微笑ましく映るだろう。

 ケーキを冷蔵庫に入れ、綺依と伊村さんは二人の帰宅を待った。帰ってきた琉依とお母さんの反応を楽しみにして。琉依が歓声をあげてくれればいいな、と綺依は思う。そして、家族が居るのも悪くないな、と独りごちた。おそらく、今までで一番記憶に残る誕生日になるだろう。本当に、楽しみだ。


-end-


12:00超えちゃって8/29になっちゃったけど(←)、改めて誕生日おめでとう!

記念すべき双子の誕生日でございました。
ちなみに、今日は犬僕の残夏の誕生日ですw

弟くんとお母さんは出てきませんでしたが(弟くんも誕生日なのに、ゴメン 汗)、それはまた来年、ということで。

書く時間があるのかどうか怪しいけどね☆

ではでは。コメントよろしくでっす!

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