▼ 02
その週の土曜日。水静が部屋でダラダラとテレビを見ていると、呼び鈴が鳴った。
自宅から通っている日織がわざわざ寮まで遊びに来たのだろうか、と思いながらドアを開けると、見覚えの無い顔の少年が立っていた。水静に勝るとも劣らない、整った顔立ちをしている。
彼は持っていた箱をずい、と半ば押し付けるように渡すと、ニコリともせずに自己紹介した。
「転校してきた、結崎 朔(ゆうざき・さく)です。隣の部屋だから、よろしく」
短くそれだけ言うと軽くお辞儀をして、水静が名乗るより先に帰って行った。対して水静は、渡された箱を持ったまま呆けたように玄関先に突っ立っていた。
「――やばい、惚れた」
氷のように冷たい朔の表情(かお)に、彼は心を奪われてしまったのだ。水静は"結崎朔"という名前を心の中で反芻しながら、やっとのことで部屋に入っていった。
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「へぇー、一目惚れしたんだ。水静が」
月曜日、水静は教室に入るなり真っ先に日織の席へ向かい、土曜日のことを話した。
すると、ニヤニヤしながら日織はそう言ったのだ。それも「水静が」の部分を強調して。
水静はその態度にムッとしたが、今はそれよりも朔のことで頭がいっぱいだった。
「日織、転校生がどのクラスなのか知ってるか?」
尋ねると、日織は無言で水静の後ろ、教卓の方を指差した。水静がそれに従って振り返ると、ちょうど入ってきた担任の後ろに続いて朔の姿が。水静は驚いて、ただぼんやりと朔を目で追いかけるだけだった。
ほどなくして朝のホームルームが始まり、担任から転校生の紹介があった。あいさつを促されると、朔はチョークを手にとって黒板に自分の名前を書く。そして正面を向いて
「結崎 朔です。これからよろしくお願いします」
とだけ言った。土曜日、水静の部屋へあいさつに来たときと同じ、全く感情の無い顔で。
「じゃあ結崎君、君の席はあそこね」
担任が指したのは、水静の席の隣。そこに向かって歩いて来る朔を見ながら、水静は心の中で叫んだ。
「これって、運命じゃないのか――――!」
確実に落とすしかない。彼がそう思っていると、席に着いた朔が話しかけてきた。
「寮で隣の部屋の人だよな? この前あいさつに行った。同じクラスだったんだ」
「あ、あの時は丁寧にどうも……。えっと、時原 水静っていいます」
「みなせ、か。よろしく」
「こちらこそ、よろしく。分からないこととかあったら何でも訊いて……ね」
緊張とテンパりでしどろもどろになっている水静と、何でこんなにテンパってんだ、と首を傾げる朔。
そんな彼らの様子を、日織はまたニヤニヤしながら見ていた。おかげで、彼の隣の席の友達から「どうしたんだ?」と心配されたのだった。
>>続く
はい、転校生とうじょー!
氷のような朔くんです←
運命を感じてしまった水静は、これからどう動くのか。
次回もお楽しみに!
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