17

その日、朔は授業中ずっと心ここにあらずといった状態だった。
水静がチラチラと横目で朔の様子を窺っていたから分かる。
何か悩んでいるようにも見えるが、いつにも増して冷え冷えとした雰囲気をまとう朔に理由を訊くことはできなかった。


朔の不機嫌が続く中、夏祭りが近付いてきた。
彼が何かに苛立っているだろうことは目に見えて明らかで、水静は約束を取り付けたとはいえ朔を夏祭りへ誘うことは気が引けた。
思案に暮れる水静を見て、日織が親指を立ててウインクする。

「悩める結崎に手助けするチャンスだろ。
夏祭りに誘って2人きりにならないでどうする」
「はあ……そう上手くいくもんか?」

横目で日織を見てため息をつく水静に、日織は言い放った。

「当たって砕けろ!」

日織の爽やかな笑顔とは裏腹に、その言葉は辛辣なものだった。


夏祭り当日、水静は意を決して朔の部屋の呼び鈴を鳴らした。

「朔くん、夏祭り行こう」

出てきた朔は怪訝そうな顔をしていたが、少し考えると頷いた。

「分かった。約束してたし」

水静はホッと胸を撫で下ろす。
朔が律儀に約束を守る人物で良かった。
部屋を出た朔と2人並んで夏祭り会場へと歩く。
その道中はどちらとも黙ったままだった。
互いに何を話して良いか分からずじまいで、会場に着いてしまう。

「すごいな……」
「うん……」

予想以上の盛況を見せる夏祭り。
会場となっている通りには道いっぱいに人が溢れていた。
人の波に押し流されながら、きょろきょろと辺りを眺める。

「時原は何がやりたいとかあるのか?」

朔が口を開いた。
訊かれた水静は、朔から話しかけられたことに内心驚きながら答える。

「俺は特に――夏祭り行ったこと無くて、行ってみたかっただけだから」

朔と夏祭りへ行くことが水静にとって今回のゴールであり、そこで何をするかなど考えていなかった。
どうしようか困る水静に、朔は1つの屋台を指差した。
そして、いささか自信ありげに言う。

「射的やっていい?」
「今日の朔くん、積極的だな……」

小さく呟くと、水静は朔と共に射的の屋台に足を向けた。


>>続く

最近の夏祭りって射的あるのかな(´-ω-`)?


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