18

屋台の主人に料金を払い、朔は銃を手に取る。
そして後ろの水静を振り返って尋ねた。

「どの景品が欲しい?」

ぼーっと朔の動作を眺めていただけだった水静は、はっとして景品の乗る台を見渡した。
一番上の台に乗っていた、ふてぶてしい表情のカエルのぬいぐるみと目が合う。
全く趣味では無いが、何故か気になったのでそれを選ぶことにした。

「そこの一番上の端にあるカエルがいいかな」
「分かった」

短く答えると、朔は目当ての景品に狙いを定める。
一呼吸間を空け、引き金を引いた、
パンッという小気味のいい音を立ててコルク弾が弾き出された。
見えない糸に引かれているかのように真っ直ぐと進んだそれは、水静の選んだカエルのぬいぐるみの元へ。
弾はカエルの腹部に命中し、ぬいぐるみは後ろへ倒れた。
カランカランとベルが鳴らされる。朔は見事に景品を獲得した。

「朔くんスゴいな」

カエルのぬいぐるみを受け取りつつ、水静は感心しきった様子で言った。
朔は「別に」と答えただけで、また台へと向き直る。
弾はあと2発残っていた。

再び引き金を引いた朔は、水静には尋ねず自分で景品を選んだ。
2つ目に取ったものは真ん中の段にあったスナック菓子。
3つ目は、一番下の隅に置かれていたもう一体のカエルのぬいぐるみーー水静に渡したものとは色違いのーーを撃ち落とした。

朔は2つをまとめて水静に渡そうとしたが、水静は首を振ってやんわりと押し戻す。
怪訝そうな顔をする朔に、彼は最初に獲得したカエルのぬいぐるみを見せる。

「俺のカエルと朔くんのカエル、形は同じ色違いだよな?
今日の思い出にそれぞれを持ち帰ろうよ。
そうすればこのカエルを見たときに、あのとき夏祭りに行ったんだという記憶が蘇るだろ」
「時原……」

朔はしばらく自分の持つぬいぐるみと水静の物を交互に眺めた。
どちらも変わらずふてぶてしい顔を見せているが、じっと見ているとそのふてぶてしさが可愛く思えてくる。
朔は素直に水静の言葉に従い、2人はそれぞれぬいぐるみを抱えてまた歩き出した。
スナック菓子は彼らの胃に収まり。

他に何か楽しそうな屋台が無いものかと、水静はきょろきょろと辺りを見渡す。
金魚すくいは苦手、くじ引きをやるには少し歳をとった……そう心の中でぶつぶつ呟きながら視線を動かす彼の目が、ある一点に引きつけられた。
前方から歩いてくる男女のカップル。
男性の方は20代半ばといったところで、女性はそれよりも歳上に見える。
およそ10歳ほどの年の差カップルのようだった。
その女性は、とても美しかったが故に水静の目を引いた。
さして露出は高くない青いワンピースに、紫色の薔薇のコサージュ。
口紅は紫がかった赤を。
屋台の明かりに照らされた彼女は、成熟した大人の美とでも呼ぶべきものを纏っていた。
彼女らとの距離は徐々に近付き、そしてあっけなくすれ違う。
しばし見惚れていた水静は、すれ違いざまに見た彼女の涼やかな目元に既視感を覚えた。

「ねぇ、朔くん」

今の人、誰かに似てーーそう隣に問いかけようとした言葉は途中で消えた。
冬の君と呼ばれるその人が、目を見開いてそこに立ち尽くしていた。

>>続く

10月です、すっかり秋です。
夏祭り編はもう少し続きます←



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