12

「日織、朔くん見なかった!?」

掃除の用意をし始めた日織に、水静は慌てて尋ねた。
「結崎? 見てないけど。何で」

訝しげな表情で訊き返す日織。少し考え、水静は躊躇いがちに答える。

「朔くんの様子がおかしかったから……。
不機嫌な上に思いつめてるみたいだったから」
「結崎が不機嫌そうなのはいつもの事だと思うけどな。
考えすぎじゃないのか?」

日織の答えは予想通りだった。
朔の表情はあまり変わらず、感情が読み取りにくい。 でも彼が転校してきてからずっと見ている水静には、微かな感情の変化に気が付いた。

「やっぱり心配だから、ちょっと探してくる」

そう言って教室の入り口に向かって歩き出す水静を引き留めようと、日織がホウキを壁に立て掛けた時、ドアが廊下から開いた。
教室に残っていた生徒全員の視線を集めて入ってきた彼は、朔を呼び出した張本人だった。
見覚えはあるが名前が思い出せず首を捻る水静の後ろで、日織が驚きと混乱を含んだ表情で呟く。

「青城……くん」
「え、青城!?」

言われて名前と顔が一致した水静は、じっと青城を見つめた。
彼は水静を見返して、ニヤリと唇の端を吊り上げる。

「転校生がそんなに心配かい?」


一方、教室を出た朔は。
階段を昇っていって屋上へ続くドアを開ける。
すると彼を取り囲むように3人の生徒が近付いてきた。
自分より上背がある彼らを、朔は順繰りに睨み付ける。
こういう時、下手に口を開いては駄目だということを彼は学んでいた。
向こうから話し出すのを待っていると、中心にいた生徒がガンを付けながら口を開いた。

「お前、よく時原水静とつるんでるらしいな」

出てきたのは、朔にとって予想だにしなかった言葉。
てっきり前の学校でのことがここまで及んできたのだと思っていた。

「……え?」

思わず口をついて出た声に、右端の生徒が神経質そうに眉をピクリと動かした。

「和寧(かずね)さんが、お前のことが気に入らないんだとよ」
「はあ……」

誰のことを言ってるのかさっぱり分からないが、ここで誰だと尋ねるのは賢明とは言えないだろう。

「お前は転校生だから何も知らないだろうと思って、特別に俺らが教えてやろうっての」
「その為に俺をここに……?」
「そういうことだ。ありがたく思えよ」

そうやって3人同時に笑う彼らは、どこからどう見てもゴロツキにしか見えない。
だが、どうやら今は危害を加える気は無いらしいと朔は判断した。
バレないように溜め息をつくと、彼は体重を左から右へ移動させる。


そんな彼の様子はつゆ知らず、水静は必死に階段を駆け上がっていた。
頭の中にあるのは、朔を助けなければいけないという思いだけ。
先ほど青城から聞かされたのは、朔を巻き込みたくなかったら、彼と関わるなということ。
怪訝そうに眉を寄せる水静を見て青城は、

「僕が諦めるとでも思ってた?
でも、僕は欲しいものを手に入れないと気が済まない性分だからね」

と不敵な笑みを浮かべて言い放った。
彼はまだ水静のことを諦めていない。手に入れるには朔が邪魔である。
水静は一瞬でそれを悟った。

「何だよそれ……往生際の悪い」

青城に聞こえないようにそう呟くと、水静は彼に尋ねた。

「で、朔くんはどこへ?」
「屋上で、僕の"友人"に可愛がってもらってるよ」

次の瞬間、水静は青城を押し退けて教室を飛び出した。
青城の言う"友人"とは、間違いなく彼の腰巾着のことだろう。
彼らの妙にぎらついた眼を思い出して、水静は焦っていた。

朔が危ない。


>>続く

水静どころか青城までキャラが固まってなかったことが発覚した\(^o^)/

とりあえず次の話で優曇華は一段落つけます。
次の次からは優曇華スピンオフやりますー。


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