11

首をかしげながら、朔は躊躇うことなく貰った紙切れを開いた。
そこには角ばった字で一文だけ書き殴られていた。

"放課後すぐ屋上へ来い"

誰からの伝言なのか、屋上へ行かねばならない理由や目的は一切分からない。
それなのに、何故か嫌な予感がした。
有無を言わせぬ文面。場所は屋上。
これは朔の経験上、呼び出しが楽しいものではないことを暗示していた。
一瞬だけ、転校する前の記憶が脳裏をかすめる。

「……ッ」

彼は声にならない呻き声をあげた。
頭をブンブンと振って、その忌々しい記憶を追いやる。
忘れたはずなのに。きっちり蓋をしたはずなのに。

トイレへ行くために廊下を歩いていたことをすっかり忘れ、足取り重く教室へ引き返す。
メモをポケットの中に突っ込んで。


「あれ、朔くんどうしたの?」

教室に戻ると、水静が心配そうな顔をして尋ねてきた。

いつも仏頂面で不機嫌そうな表情の朔だが、今は更に眉間にも皺が刻み込まれていた。

「何でもない」

彼は素っ気なくそう言った。
けれども水静は納得できない。

「で、でも朔くん、すごく不機嫌なオーラ出てるよ」

その"オーラ"にたじろぎながら指摘すると、朔は黙って目だけを水静の方に向けた。
いや、睨み付けたと言った方が正しいかもしれない。
不穏な空気を纏わせたまま、彼は着席した。
チャイムが鳴り、授業が始まる。

授業中も短い休憩時間にも、水静は朔から目を逸らさなかった。
ずっと見張っていなければ、彼が何処かへ消えてしまいそうな気がしたから。
それなのに、最後の授業が終わってすぐ。
教科書を片付けようと、彼から少し目を離した瞬間。

朔は消えていた。

>>続く

何とか今年中に一段落つかないかと足掻く作者。

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