13

ドアノブに手をかけて扉を押し開けた水静は、思わず自分の目を疑った。
屋上の真ん中では、朔が毅然とした風情で立っている。
その周りにうずくまる3人。

「……朔くん?」

呆けたように開いた口から絞り出せたのは、彼の名前だけ。
その声に気付き、朔は水静の方に顔を向けた。

「時原、どうしたんだ?」
「いや……えーっと、この状況は……?」

倒れた青城の腰巾着と朔を交互に見つめ、水静は戸惑いながら尋ねる。

てっきり、3対1という不利な状況で朔はされるがままになっているのだろうと思っていたのだが、どうやらそんなことは無かったらしい。
むしろ

「……強いんだ」

困ったような笑顔を浮かべて呟く。

「何か言ったか?」
「いや、何でもない」

水静が伏し目がちにそう答えたとき、開け放されたドアから日織が飛び出してきた。
少し遅れて青城もやって来る。

「結崎! だいじょう……ぶそうだな」

水静と同じように、倒れた3人に目を落として苦笑いを浮かべる日織。
その後方で青城は眉をひそめた。
チッと舌打ちをすると、苦々しそうに吐き捨てる。

「次は容赦しないからな」

そう言って倒れた者を誰一人助け起こすこともせず、彼はふてぶてしくその場を去っていった。

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「あれは何だったんだ?」

自販機で買ったジンジャーエールを飲みながら、朔は水静と日織に尋ねた。
青城が去ってから、彼らもさっさと屋上を後にしたのだ。
コーラを飲む手を止めた日織は、朔の言葉に目を丸くする。

「え、理由も分からずにぶっ倒したの?」
「殴られかけたから」

朔は淡々と答えた。
しかし自分より上背のある相手を3人も倒してしまうなど、相当なことだと水静は思う。
この学園へ通う生徒の大半が非攻撃的だからかもしれないが、今まで青城たちを打ち負かすことが出来た者は居なかった。
朔が3人に勝ったことは今後、吉と出るのか凶と出るのか。
嫌な予感が水静の胸の裡をかすめた。

「で、何だったんだ?」

痺れを切らしたのか、朔はやや刺々しく質問を繰り返す。
日織は水静と視線を交わし、浅く頷いた。

「一番最後に屋上に来た、ふてぶてしい態度のやつ。
青城和寧っていう俺らと同じ学年のやつなんだけど、どっかの社長の息子らしくて、誰も逆らおうとしないんだよ。
で、そいつがずっと水静に執着してて」

日織の説明に朔は首を傾げる。

「執着って?」
「あー……。
前に青城が水静に、自分と付き合えって言ったことがあって。恋人としてな。
それを水静があっさり断っちゃったから。
今まで自分の言うことを聞かなかったやつなんて居なかったんだろうな。
相当根に持ってるらしいぞ」

あからさまに嫌悪感を示す朔。
飲み干したジンジャーエールの缶を、今にも握り潰してしまいそうだ。

「でも何で俺じゃなくて朔くんを襲ったんだ?
まだ俺を諦めてないって言ってたのに」

水静の問いに答えたのは消息通の日織ではなく、顔をしかめている朔だった。

「あの3人、俺が時原とつるんでるから和寧さんが俺のことを気に入らないとか言ってた。
時原が俺につきまとうから悪いんだろ」

返答にしばし固まる水静を尻目に、日織がパンッと手を打った。

「水静を直接痛め付けても効果がないから、水静が最近つきまとってる結崎を痛め付けて精神的にダメージを負わせようってことか!
さすが青城、相変わらずやることがゲスい」

そして彼と朔は水静の方を向き、声を揃えて言い放つ。
もちろん偶然なのだが。

「つまりお前が悪い」

「ちょっ、ちょっと、それは無いだろ?
悪いのは青城……」

言い訳は無用とばかりに、2人は更に水静を睨み付ける。

「水静が青城をどうにかしないから、結崎が危ない目にあったんだよ」

そう日織がなじる。そして声をワントーン落とすと

「だから、水静が結崎を守らなきゃ」

言って、意味ありげに口の端を吊り上げた。
途端に水静は顔を真っ赤に染める。
そのまま口の中でモゴモゴと呟いていたが、やがて意を決したように口を開いた。

「朔くん……。
出来るだけ朔くんを守るから……」
「守るから、何だよ」

一旦切れた言葉に、朔は怪訝な表情になる。

「……俺と付き合って」

次の瞬間、その場に滅多に聞くことがない朔の大声が響き渡った。

「はあああああああ!?」

「俺、朔くんに一目惚れしてさ」

俯いてモジモジとしながら水静は続ける。

「朔くん強いみたいだからもしかしたら守ってもらわなくても良いかもしれないけど、巻き込んじゃったのは俺の責任だし」
「意味わかんねぇ。
余計巻き込んでるだろ、それ!」

普段は無表情の朔が、変化を見せた。
よほど興奮しているのだろう、頬が紅潮している。

「だいたい何でこの学校にはホモしか居ないんだよ!?」

これには日織がしれっと答えた。

「だってここ、男子校だから。
ちなみに俺はノーマルな」
「何でこんなところ……」

続きは言葉にならず、朔はがっくりと肩を落とした。
水静は顔を少し上げて、問いを重ねる。

「ダメ……かな?」

腹の底から深く息を吐き出し、気持ちを落ち着かせてからその質問に答えた。

「保留にさせてほしい。
だから今は、これまで通り接してくれ」

水静は残念そうな顔をしたが、それでも頷きを返す。
隣では日織が安堵のため息をついていた。

>>続く

ここでやっと一段落しました。
これから更新のメインはスピンオフになります。

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