もう我慢できるワケねぇだろ
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「い、痛いってバカ!」
「仕方ねぇだろ! お前のが狭すぎんのが悪い!」
午後六時。一組の男女がベッドの上で怒鳴り合っていた。一糸纏わぬ姿のまま。
相棒に「詳しくは明日説明してやっから!」と全ての仕事を押し付けて松田が家にやってきたのがたった二十分前。
なまえは「いらっしゃい、早かったね。ご飯今から作るけど…」という言葉すらロクに言わせてもらえず、有無を言わさぬスピードでひん剥かれたのだった。
「待って」「やめて」は一切通じない。
抗議をしようと口を開けば分厚い舌によって邪魔され、四年間守り切った身体は器用な手によってグズグズに解された。
そしてイザ本番。となったにも関わらず、怒鳴り合っているのが今である。
「ていうか急すぎなの! 感動の再会したばっかなのに何でもうエッチなことするの!」
東・マドンナの山が言うことはもっともだ。
ムードもへったくれもなくベッドに放り投げられ、ひん剥かれ、グズグズとろとろにされたのだ。
もちろん、「きっとそういうことをするんだろうな」という予感はしていた。ので、松田を待つまでの間しっかりシャワーを浴び、いい匂いのするボディクリームを塗り塗りして待っていたのだ。
だが、あくまでもそれは二の次≠ナ、まずはこの四年間のことを詫び、美味しいご飯を食べながら空白の時間の話に花を咲かせようと思っていたのだ。
この四年間で離れてしまった距離を近付け、お互いの気持ちが落ち着いたところで「そういうこと」をするものだと思っていた。
「は!? もう我慢できるわけねぇだろ」
西・松田の富士の主張もマァ分からんでもない。
四年という気の遠くなる期間、散々我慢させられたのだ。
この四年間、もちろん他の女には指一本触れていない。
それどころか、自分で自分を慰める時のオカズもほとんど使っていない。
なぜなら、自分が知ってしまった極上の女以上の存在を見つけることができなかったからだ。
健康上、定期的にヌかないと…とアダルトビデオを再生させたところで自分のムスコは思うように元気が出ず、「性が死んだんか!?」と病院に行ったのはカノジョと距離を置いた一ヶ月後のこと。
『検査の結果ですが、異常は全くありません』
『ヤでも先生、勃ちが悪くて…』
『でも、検査用の精液のサンプリングをした時は、結構早く部屋から出てきましたよね…?』
『………それは、…あー…』
病院で精液をサンプリングする際、オカズの類が一切ない部屋でヌかなくてはいけなかった。
ので、松田は必死にカノジョとのあれこれを思い出してヌいたのだった。
あのしとどに濡れる肌を、潤んだ瞳を、熱に浮かされた表情を思い出した結果、自分のムスコは水を得た魚のように元気になり、あっという間にサンプリングが終了したのだった。
『つまり、その、非常に言いづらいのですが…松田さんの場合はその、身体に影響があるワケではなく…その…』
『もういいですすみませんでしたもう来ません』
──お前が勃たないのってオカズが合ってないだけじゃね?
医者の意図を汲んだ松田は椅子に座ったまま九十度のお辞儀をし、今スグに死んでしまいたい…殺してくれ…と自殺掲示板に書き込みそうになった。
というワケで、この四年間のオカズは全てカノジョとのあれこれである。
ので、久々のカノジョの家・カノジョの匂いに理性がぶっ飛んでしまったのだった。
「………」
「………」
無言で睨み合う。
──再会してスグにエッチって何考えてるの?
──分かってる。本当に悪ぃ。けどもう無理。
目線だけで殴り合い、お互いの主張をぶつけ合った。
「………」
「……………」
「…もう、分かったわよ」
先に折れたのは、なまえの方だった。
なぜなら、自分を見下ろす松田がひどく苦しそうな顔をしていたし、睨み合っている間も太ももに擦り付けられる剛直が一向に硬さを失わなかったから。
「あの、一個聞かせて。…この四年間その、他の子と…ひゃっ、!」
「マジでねぇから安心しろ。お前以外の女には指一本触れてねぇし何ならずっとお前でヌいてた」
「…ぁ、やめ、!」
「やめねぇ」
松田は再び彼女のナカを解す作業に戻る。
せっかく松田が開発したナカは、ハジメテの時と同じくらい狭くなっていた。
聞くのが怖くて聞けていないが、おそらくこの四年間誰にも身体を許さなかったのだろう。
美しい顔・完璧なスタイル・マドンナちゃん≠ニいう肩書きを持っている彼女に言い寄る男など死ぬほどいたハズなのに。
「お前、誰ともヤって…」
「ないに決まってるでしょ…ぁッ、わ、私の一途さ舐めないでよね…」
「…最ッ高の女だな、マジで」
「ま、待ってソレ、ヘンなる……ぁ、やめ、」
「やめねぇって」
「────ッ、ぁあ!」
ナカに指を三本入れ、バラバラに動かす。
逆の手で臍の下を外からグ、グ、と押し、右手の親指で陰核を擦ると、なまえは身体を弓なりに反らせて達した。
松田はそれを見て満足げに笑う。
だって、ずっと夢に見ていた光景が眼下に広がっているのだ。
うっすら色付く白い肌・汗で張り付く前髪・焦点の合っていない潤んだ瞳。
全てが美しく、全てが厭らしく、全てが愛おしかった。
「待って、も、むり…」
「まァだだっつの。少なくともあと三回はイかせるからな」
「…ぁ、はッ、ぁあ゛っ!」
「あと二回」
ナカで蠢く指が一番弱いところを嬲る。
なまえがガクガク身体を震わせて達し、ナカから透明な愛液が吹き出た。
虚(うつろ)な瞳で松田を見上げ「あ」「はう」とカラカラの声で呟いた。
「おみずのみたい」
「後でな」
「…ぅ、…あ、まって」
「逃げんな」
「ぁ、ア、あ、~~~~~~ッ!」
逃げようとする腰を押さえ、ナカを強めに擦ると。
ぷし、ぷしっ、と愛液がナカから連続で吹き出し、シーツにシミを作った。
「あと一回。頑張れ」
「ぁ、また、イ、ッ! …まって、止まんな、ぁあ゛ッ! だめまた、あ、ア゛、────ッ!」
「あー…エッロ…」
なまえはゾーンに入ってしまったかのようにひたすら達していた。
三回どころではない。連続で五回以上、松田から与えられる刺激全てに反応し、ガクガク身体を震わせた。
シーツには吹き出した愛液で大きなシミができ、そこに松田が手をつくとジワ…と沁み込んだ愛液が繊維の隙間から浮かび上がってきた。
「イきっぱなしだな」
「ぁ、……ぅ、」
「…オイ、」
「………ん」
ナカから指を抜いたにも関わらず、なまえは虚(うつろ)な瞳で身体を震わせていた。
四年ぶりに与えられた強い刺激に意識を飛ばしているのだ。
──あ、もしかして俺、やりすぎたか?
「………」
松田は「(´・ω・`)」という顔でぺたぺた寝室を出て、冷蔵庫からペットボトルの水を取ってくる。
ゆっくり彼女を起き上がらせ、浅い呼吸をする口に冷たい水を流し込んでやった。
「…ぁ、え、陣平?」
「大変申し訳御座いませんでした」
マァ土下座である。
情けなく地べたで頭を垂れる癖毛に、なまえは一瞬「?」という顔になり──、
「バカタレ!」
破鐘のような声で怒鳴った。
記憶は飛び飛びだが、目の前で土下座する男に散々イかされたことを思い出したのだ。
「やめてってゆったのに!」
「返す言葉も御座いません」
「四年ぶりよ! 四年ぶりなのに!」
「仰る通りで御座います」
自分の言葉に何度も頭を下げる癖毛を見て。
そんな状況なのに一向に萎えていない剛直を見て。
「…いいわよ、来なさい」
なまえは女帝の風格で告げるのだった。
この四年間、ダテに一人で努力をしてきたワケじゃない。
根性も、度胸も、人一倍強くなったのだ。
ので、
「許してあげるから、おいで」
「…マジ?」
「来いよ、クレバーに抱いてやる」
勇ましい顔で地べたに正座する男を見下ろして笑うのだった。
抱かれるのは自分のクセに。
「…ぁ、まって」
「ワリ。マジで無理。腰が止まらん」
さてその五分後。
なまえは先程の女帝の風格はどこへやら、再び待ってやめてよしてのロボットとなっていた。
盛りのついた獣が容赦無く腰を打ち付けてくるのだから。
「ぁ、ヤベ、出る──ッ!」
「ぁあ、あ、あぁぁぁっ!」
あんなにとろとろに解したナカは良い≠ヌころではなく、松田はあっという間に薄い膜越しに精を吐き出したのだった。
終わった…と思い身体の力を抜いたところで、再びいりぐちに怒張が添えられる。
「え、待って、終わったじゃん!」
「あんなモンで満足できるワケねぇだろ」
「、ゃ、ぁあッ!」
「好きだ」
この四年間の想いごと、松田を受け入れていくのだった。
「ぁ、まって、またイっちゃ、」
「イけ」
「ぁ、あああぁあ──ッッ!」
先程、指で嬲られたのよりも大きい波に、何度も身体を弓なりにして達した。
松田はそんな彼女を見下ろして、「好きだ」とまた呟いた。
最奥を何度も穿ち、その度にあられもない水音と肌がぶつかり合う音が鳴る。
その音がまた彼女の耳を犯し、彼女を追い詰めた。
「…なァ」
「は…ッあっ、…なに」
「名前、呼んでくんね?」
「じ、陣平…じんぺ、ぁあ゛ッ」
「愛してる」
「…ッ!」
「クソ、締めんな!」
彼から言われた愛してる≠ニいう言葉に。
マドンナちゃんのナカがぎゅん、と締まった。
「…だめ、いっちゃ、イく、イ゛、~~~~~ッ!」
「ッグっ、────ッ!」
自分を締め上げるナカに一気に吐精感が煽られ、松田は唇を噛んで再び欲を吐き出すのだった。
△▽
「なぁ悪かったって」
「もういいもん」
時刻は午後九時である。
松田はぷんすか怒りながらピザを食べる乙女に何度も頭を下げていた。
あれからベッドでもう一ラウンド。
全身汗だくになったので二人してシャワーを浴びに行ったところでさらに一ラウンド。
合計四ラウンドも付き合わされ、さらには最中二回も意識を飛ばさせられたので乙女は怒っているのである。
オマケに、松田に振る舞おうと思っていた料理も今から作るのでは遅くなってしまうし。
「もう話しかけないで」
「悪かったって。な? 次何食うの」
「…チーズのやつ」
「蜂蜜は」
「たくさん」
ので、松田はぷんすか怒る乙女の機嫌を取るべく濡れた体を拭き、お召し物を着せ、汚れたシーツを洗濯機に入れ、ピザの出前を頼み、甲斐甲斐しく蜂蜜をたっぷりかけて小さなお口にせっせと運んでやっているのだ。
「な? 悪かったって。機嫌直してくんねぇか」
「もう永遠に笑顔は失われた」
「本当にすいませんでした」
口の周りについた蜂蜜をティッシュで拭き取り、コーラを飲ませ、背中をトントンしてやれば、
「………」
満腹で眠たくなってきたのか、なまえは次第にウトウトと船を漕ぎ出した。
これに松田は唇の端に皺を寄せて笑った。
他の連中は、彼女のこんな無防備な姿を見たことがないだろう、と。
凛と輝く瞳・完璧な笑顔・マドンナちゃんと呼ばれるに相応しい振る舞いしか知らないのだろう、と。
こんなマヌケでガキっぽくて愛らしい姿を見られるのはカレシである自分だけの特権で、彼女が本当に自分に心を許している証拠なのだから。
「…な? 悪かったって…」
「ゆるさない」
「分かったから、寝る前に歯ァ磨こうな」
「…んん」
なまえは「ゆるさない」と言いつつ松田に手を引かれるがまま洗面台に行き。
手に持たされたいちご味の歯磨き粉が乗った歯ブラシを何の疑問も持たずにシャコシャコやり。
お口があわあわになったところで差し出されたしまじろうのコップで口を濯ぎ。
「明日何時に起きるんだ?」
「ななじ」
「目覚ましかけとくな」
「ごはん、二合セット」
「しとくから」
「よし」
再び手を引かれるとトテトテ付いていき。
替えのシーツが敷かれたベッドに横になり。
ふかふかのお布団にくるまれて上からトントンされれば──。
「……すー………」
「…マジで寝やがった」
バンザイのポーズでぐうすか眠りにつくのだった。
昼間の鋭い声がどこから出ていたのか疑問に思うほど子どもっぽい寝顔である。
「……っとに、かぁわい…」
松田はしばらく肩を震わせながらそのアホ面を頬杖をつきながら観察し、
「米二合だったな…」
リビングに広げっぱなしのピザをコーラと共に流し込み、ゴミを片付け、米をセットし、そうしているうちに洗濯が終わったのでシーツをベランダに干し、勝手に新品の歯ブラシを開けていちご味の歯磨き粉で歯を磨き。
「…好きだ」
バンザイ大臣の横に忍び込み、そのアホ面ごと腕の中に閉じ込めて眠りにつくのだった。