お前が欲しい




「…ん、んん゛!」
「……は、……、」
 
タクシーに揺られること二十分と少し。
家に入った松田は靴も脱がずにマドンナちゃんの唇に噛み付いた。
角度を変え、何度も何度も口付ける。薄く開いた唇に分厚い舌を無理やり捻じ込み、狭くて甘い口内を犯す。ぴちゃぴちゃと厭らしい水音が鳴り、女の口から二人の唾液がツ…と垂れた。
 
「ッ、まって、じん、ぺ、」
「待たねぇって言ったろ」
 
女の足がガクガク震え、松田は今にも崩れ落ちそうな細っこい腰を掴んで支えた。
顔を少しだけ離して見つめ合う。
自分の腕の中にすっぽりとおさまった綺麗な色の瞳は、薄く張った涙の膜の奥でとろとろに蕩けていた。
 
「マジで可愛いなお前」
 
松田は喉を鳴らしてから再び顔を近付けて──、
 
「だから、待ってって言ってんでしょ!」
「痛って!!」
 
ドン! と鳩尾を殴られてよろめいた。
マドンナちゃんに殴られたのだ。
この状況で殴られることってあるんだな…と呆然としながら何とか体勢を立て直す。
 
「何で殴んだよ」
「だって陣平が言うこと聞いてくれないから!」
「待たねぇって言っただろ」
「だって…!」
 
目の前の女は肩で息をしながらグッ、と乱暴に口元を拭った。
未だ涙の膜が張った瞳で上目遣い気味に松田を睨んでくるものだから、松田はングゥと声を漏らす。
 
──煽ってくんじゃねぇよ!!
 
このバカ女。言葉と行動が釣り合っていないのだ。
待って待ってと言うワリに、雄の神経を逆撫でするような行動を平気で取ってくる。
コッチをその気にさせた癖に、イザとなったら怖気付いて攻撃してくるのだから。
これを計算せずにやっているのだから本当にタチが悪い。
 
「だ、だって…私、本当にこういうのはじめてなんだもん…」
「…………ハァ」
 
松田は海よりも深いため息とともに「だからそういうの、俺のこと煽ってるって何で分かんねぇの」と吐き捨ててから。
未だネコのようにコチラを警戒してくるマドンナちゃんの肩をゆっくりと引き寄せた。
 
「じ、陣平…?」
「…ガッついて悪かった」
 
再び腕の中に華奢な身体を閉じ込めて、安心させるように優しく背中を撫でてやる。
少しずつ強張った身体から力が抜ける。
もう一度「悪かった」と呟いてからゆるりと身体を離し、頭ひとつ低い位置にある額に自分の額をコツンとくっつけた。
 
「俺、お前のことすげぇ好きなんだよ」
「…うん」
「だから、お前がまだそういうことしたことない≠チていうの…何つーか…あー…すっげぇ、嬉しいわけ」
「え?」
「あ?」
「…めんどくさく、ないの?」
 
予想の斜め上の言葉に「は?」と間抜けな声が飛び出た。
しかしマドンナちゃんは情けない顔で「だって、初めてって重いって言うし…廣瀬ちゃんにもびっくりされたし…」とモジモジてろてろ呟く。
挙句の果てに「こんなことなら、誰かとシとけば良かった…」などという妄言を吐くのだから。
 
「テメェ…」
 
再び松田の導火線に火をつけてしまったのだ。
気付いた時には目をギラギラさせた獣が自分を見下ろしていた。ピャ! と子ウサギのように身体を丸めて逃げようとしても時すでに遅し。
 
「珍しく人が下手に出てやったのによぉ…」
「お、怒らないで…」
「マジで抱くから覚悟しとけ」
「でもぉ…」
「でもも何もねぇだろ。卒業旅行の時あんだけ『お前の大事なハジメテを俺も大事にしてぇ』って伝えたのによ…なのに『誰かとシとけば良かった』だ? お前マジでいい加減にしろよ」
「だ、だって…」
「とにかくシャワー浴びて来い! …待てダメだ俺が後だとお前ぜってー寝たフリして逃げるだろ。いい。俺が先シャワー浴びる」
「えっえっ」
「いいから早くシャワー案内しやがれ」
 
子ウサギは松田の勢いにビクッと身体を跳ねさせた。
反論しようと口をパクパクさせたところで完全にブチ切れた松田に適うワケもなく、目をバッテンにしながら「ひゃい」と返事をすることしかできなかった。
 
 
 
△▽



「…クソ」
 
さてその十五分後である。
松田は換気扇の下でプカプカ白い煙を吐き出しながら癖毛をグシャグシャに掻き回していた。

先ほど熱い湯を頭から被った瞬間我に返ったのである。
性急すぎた、と。

あのバカのバカ発言は今に始まったことではない。
警察学校のマドンナちゃん∞歌舞伎町の女神様≠ニ呼ばれる女の本当の姿は、自分に自信がなくて、ウジウジしていて、ただのちっぽけで臆病な女なのだ。
だからさっきも「めんどくさくないの」と聞いてきた。大真面目にそう思い込んでいるからだ。

努力することは人の五千倍できる癖に、努力できないことに関しては頭がまっちろになる厄介な女なのだ。

「でも、さっきのはアイツが悪い…よな」

松田は灰皿にタバコをグリグリ押し付けてから改めて部屋の中を見渡した。
パッと目についたのはデスクの上。
アングラ系の雑誌が幾つも開かれている。『実録! 日本一治安の悪い場所・歌舞伎町』『トー横キッズの実態に迫る!』と見出しがついたページにチマチマとポストイットが貼られている。ヤツの努力の跡が垣間見えた。
その雑誌の山の中に十代の女の子が好みそうなファッション雑誌も見つけて何気なく手に取った。へぇ、アイツこんな本まで読んで頑張ったんだな、という気持ちで。
適当にページを捲って中身を流し読みする。若い女の子が好みそうな服装や人気のスイーツ特集など、ところどころにマジックペンで印がついていて『マミちゃんが好きそう』『サクラちゃんの服』と丸っこい文字でコチャコチャ書いてある。
幾分か機嫌が戻った松田は引き続きパラパラページを捲っていたのだが──。

「あ…?」

全く印はついていない、ポストイットも貼られていないページで目が留まった。何度も開いた時につく癖がついていて、ページの角が小さく折られている。
そのページには『そろそろ来るかも!? 今更聞けない初エッチの行動!!』というポップな文字が躍っていた。

「コンドームはしっかりつけましょう…上手なフェラのやり方…マグロは嫌われる…自分で性感帯を開発しよう…」
「何見てるの?」

背後から聞こえた鋭い声に、松田はビクッ! と身体を跳ねさせた。
松田の言いつけ通りシャワーを浴びたマドンナちゃんが背後に立っていたからだ。
先ほどの、怒られてペショペショになっていた姿はもうそこにはない。覚悟が決まったような、どこか緊張した面持ちで松田に話しかけた。
頭から熱い湯を浴び、いい匂いのするシャンプーやらボディーソープの香りに包まれる中で、漸くこれから彼に抱かれるのだ≠ニいう決心がついたのだ。

さて困ったのは松田である。集中しすぎてドライヤーの音すら聞こえていなかった。手元の雑誌はきっと彼女が努力をしようとした形跡であり、絶対に自分が見てはいけないものだったから。

「お、おう。早かったな」
「そうかな。あ、机の上散らかっててごめんね。歌舞伎町のこと色々と調べてててててて」

ほかほか真横までやってきたマドンナちゃんは壊れたカセットテープになってしまった。松田の手の中で開かれているページを見てしまったのだから。
「見られた?」「どうしよう」「バレた?」そんな声が聞こえてくるような表情は、松田と初めて警察学校の喫煙所で出会った表情と全く同じだった。しかし以前の彼女とは違い、今日のマドンナちゃんの動きは素早い。松田が何か言う前に、バッ! とネコのような俊敏な動きで雑誌を奪い返すと一気に後ずさったのだった。

「こ、これは…その、違うの」
「…悪かった」
「ああああやまらないで。その代わり忘れて」
「それは…無理だろ」
「何で! …わ、ッ!」

目の前の男が一気に距離を詰め、女の腕を引き寄せた。バサリと雑誌が床に落ちるのもお構いなしに背中と腰に腕を回す。
グッと高い背を丸めて、再び腕の中にちまく収まったマドンナちゃんの耳元に口を寄せた。

「なぁ」
「な、なに…」
「何であんなページ見てたんだよ」
「見てないもん」
「嘘つけ。端っこんとこ折ってたろ」
「………陣平に」
「あ?」
「陣平に、幻滅されたくなくて」
「…………ほんっとお前は」

耳まで真っ赤に染めてそんないじらしいことを言うものだから。
自分を見上げる大きな瞳がうるうると潤んでいるものだから。

「…目、瞑れ」
「ま、待って」
「もう無理だっつってんだろ」

──覚悟しとけって言ったよな?

上から被さるように抱きしめたまま優しく口付けた。先ほどは玄関であんなに激しいキスの雨を降らせていたというのに。啄むようにちゅ、ちゅ、と角度を変えて何度も何度も唇を重ねる。

「、ん…、」
「ほんっとに…かぁわい」
「ん、んぁッ!」

女の悲鳴ごと飲み込んで、その代わりに分厚い舌を捻じ込む。
さっきよりももっと深く、後頭部に手を回して逃げ惑う小さな舌を追いかける。

「…あ、…ふぁ…、」
「あんましかわいー声出すなよ。我慢できなくなる」
「我慢、する気なんて、ないくせにッ!」
「は、…そうかもな」

舌を吸われ、上顎をなぞられ、全てを掻き出すような口付けにくらくらする。今まで感じたことのない甘さに脳髄まで蕩けそうになる。
何度も何度も口付けを交わすごとにお互いの体温が交ざりあっていくようで、どちらが自分なのか分からなくなりそうな恐怖で身体が震えた。

「…は、陣平、も、むり…」
「もう立ってらんねぇのか? …だったら、」
「ひゃ、!」

くったりと自分の胸に凭れ掛かるマドンナちゃんに、松田はくつくつ喉を震わせてから少し屈んで「よ」と声を上げながら抱き上げた。──所謂お姫様抱っこ≠ニいうヤツだ。

「寝室って、あのドアの向こうでいいんだよな?」
「そうだけど…ちょっとおろしてよ!」
「なんで」
「…お、重いもん」
「バァカ。体育祭の時もしただろうが」
「それは思い出させないで!」

そうだった。体育祭の棒倒しで落ちた自分を受け止めてくれたのも、まだ付き合う前の彼だった。
あの時は百人を超える人間の前で人生初めてのお姫様抱っこをされたのだ。
そんな松田とまさか付き合うことになり、まさか半年後もこうやってお姫様抱っこされることになるなんて──。

!!」

松田は腕の中で百面相をする女にもう一度喉を震わせる。
のしのし家の中を無遠慮に歩いて、扉を足で乱暴に開けて薄暗い寝室に入った。

ふわり。鼻を擽ったのは甘くて優しい香り。好きな女からよく感じた匂いだった。
思えば、あの野外訓練の夜も、飲み会を抜けた先で手を繋いで帰った夜も、伊達からフられて泣く姿を抱きしめた時も、想いが通じ合ってキスをした時も。
いつもこの匂いが松田を包んでいたのだ。

「…俺、マジで今からお前のこと抱くんだな」
「え、な、なに急に。ていうかあんま部屋の中見ないで」
「何でだよ」
「だって…昨日脱いだ服そのまんまタンスの上置きっぱなしだし…あ、引き出し開いてる。しかも下着コーナーだ最悪…見ないでよね」
「今からもっとすげぇトコ見んのに?」
「見ないでってば!」
「へーへー。努力はする」

尚も腕の中でキャンキャン喚く想い人に「マジでかぁわい」と囁いてドサリとベッドに放り投げた。

「に゛ゃ!」
「疲れた」
「だから降ろせって言ったでしょ」
「嘘、軽すぎて心配になったわ。お前ちゃんと食ってんのか?」
「食べてるけど…ひっ、」

逃げようとした獲物を閉じ込めるようにすかさず覆いかぶさった。ベッドのスプリングが二人分の重さでギシリと鳴る。

「…なぁ」
「な、なに」
「さっきはガッついて悪かった」
「それはもういいって…私も、無神経なこと言ってごめん」
「それと」
「え?」
「できるだけ優しくするつもりだけど…あー…その、ガッついて抱き潰しちまったらスマン」
「な、え、どういうこと」
「…すっげぇ興奮してっから、俺」

ゆるりと大きな手で頭を撫でられた。
そのままゆっくりと薄い唇が額に触れ、髪に、頬に、唇に触れる。

「ん…、」
「何でお前どこもかしこも甘ぇんだよ」
「し、知らないもん」
「頼むから俺以外に知られんなよ」

部屋を照らすのは、開きっぱなしのドアの向こうから射し込むリビングの光だけ。
薄暗い中でも松田の両腕に挟まれたちまこい顔が真っ赤に染まっているのが分かった。無意識に喉が鳴る。

「マジでかわいい。誰にも見せたくねぇ」
「…や、ッ! ぁ…」
「かわいい声も我慢すんなよ。そんでもって、俺以外の誰にも聞かせんな」

耳を掠めた松田の唇に「、ふ、ぁ」と甘い嬌声があがった。

「どうした?」
「ぁ、だめ…そこで喋らないで、なんか、ヘンになる」
「耳、弱ぇんだな」
「ッ声、が、ずるい……ぁ、やだぁ…っ!」

耳元で囁かれる掠れ声に身体全体がじくじくと熱を持つ。首元に触れるふわふわの癖髪に、肉食獣に襲われる小動物のようにぴくぴく肩が跳ねた。
そんな腕の中の小動物をジ…と観察した肉食獣は、徐に其の真っ白な首元に噛み付いた。

「ひ、ゃあ!」

そのまま強い力でジュ、と吸われ大きく身体が跳ねる。
唇を離した松田は、今しがたつけた白い肌に浮かぶ赤い跡を満足そうに眺めた。[[rb:自分の所有印>俺のだ]]。警察学校のマドンナちゃん∞歌舞伎町の女神様≠ニ呼ばれる女はたった今自分だけのモノになった。それを証明するようにくっきりと映えた目に見えるカタチ≠ヘ酷く淫靡で、思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。

「…服、脱がしていいか」
「き、かないで…」
「悪ィ悪ィ」

恥ずかしそうに顔を背けるマドンナちゃんに口先だけの謝罪をすると、松田はゆっくりと背中に腕を回して抱き起こした。部屋着のパーカーのジッパーをゆっくりおろしていく。真っ白の柔肌が徐々に顔を出す。

「…何でお前、パーカーの下なんも着てねぇの」
「あつかったから…」
「もしかして、警察学校ン時もそうだったのかよ」
「え?」
「夜、喫煙所で会う時よくこれ着てたろ」
「…ああ、そうかも」
「もう二度とやんなよ。せめてTシャツくらい着ろ…危ねぇだろ」
「陣平と二人の時も?」
「…それはいい。つーかなんも着なくていい」
「なにそれ意味わかんない。…待って、あ、あんま見ないで」
「無理」

顕になっていく白い肌と胸を覆うピンクの下着のコントラストは目に毒だった。脳裏に卒業旅行の時の真っ黒のビキニに包まれたむちむちが過ぎる。あの時は公衆の面前ということもあり、反応しそうな雄の部分を必死に抑えるためにまともに直視することができなかったのだ。
──しかし今は違う。やっとこの薄いピンクに隠された秘密の場所を見る権利を得たのだから。

ぱつん、と後ろの留め具を外し、ふるりと姿を現した双丘に松田は再び喉を震わせた。綺麗だ、と素直にそう思った。
桃色の飾りのついた豊かな白い肌は、誘うように甘い香りを放っていた。
マドンナちゃんはジリジリと自分を見下ろす焼け付くような視線から逃げるように「ヤ」と身体の前で腕を交差させる。すぐにその腕は骨張った手によってシーツに縫い付けられた。

「や…陣平、ほんとに見ないで…」
「無理だろ。俺が今までどんだけ我慢したと思ってんだよ。隠すな。…こっち向けって」
「ふ、ぅあ、…!」
「声も、我慢すんなよ…聞かせろ」

ゆるりと胸を撫でられて鼻にかかったような甘い声が飛び出す。
咄嗟に口元を両手で覆おうとして、再び松田の手によってどかされた。
胸の突起を甘噛みされ、分厚い舌で転がされ、反対側も手で愛撫されてびくびく身体を震わせる。

「きもちいか?」
「ゃ、わかんな…い…でも、なんか背中、ぞわぞわする…ぅ、」
「……何でお前いちいちかわいいんだよ」
「ッ! やッ、!」

徐に松田の指が薄く割れた腹筋をなぞった。
ぞわ、と背中が粟立ち、身体がぴくりと跳ねた。

「下も脱がしていいか」
「だから、きかないでって、ば、…」

ゆっくりと優しく部屋着のズボンを脱がされて、上とセットのピンクの下着に手をかけられる。誰にも見せたことのない、自分でもまじまじと見たことがないソコが愛しい人に見られているという事実に両手で顔を覆って──直ぐに松田によって再びベッドに縫い付けられた。「隠すなって言っただろ」と意地悪く笑う松田にきゅんと胸が鳴る。

「…つーか」
「え? なに、ヘン?」
「や、何でお前パイパンなわけ」
「…廣瀬ちゃんが、イマドキみんな剃ってるって…」
「………」

曰く、廣瀬に唆されて全身ツルピカに脱毛したのだという。「プールの授業も多いしムレるし全剃りがいいよ!」と。あのバカ女、なんつーことしてくれやがったんだ。松田はングゥと声を漏らして眉間を抑えた。

「え、へ、ヘンなの!? ど、どどどうしよう」
「逆」
「へ?」
「余計興奮する。マジで…エロすぎてやべぇ」

一糸纏わぬ姿となった白い肌がうっすらと桜色に染まる。
むちむちの胸と誰にも見せたことのないつるりとした秘部がひどくアンバランスで、グルグルと獣のように喉が震えた。

「待て。お前全身脱毛する時にココ他の奴に見られたってことか?」
「…あ、そう…確かに。でも女の人だった…ッ、きゃ!」

松田は最後まで聞かずに真っ赤に熟れた胸の飾りをキュ、と再び摘んだ。好きな女の大事な部分を他人が見たという事実に嫉妬したのだ。
食べ尽くすように唇を喰み、分厚い舌で狭い咥内を犯す。
この腕の中のかわいい生き物を誰にも見られたくない。独占欲が人一倍強い男なのだ。

「二度と誰にも見せんじゃねーぞ。俺だけにしろ」
「わかったッ、わかったからぁ…!」
「ここも」
「ッひ、!」
「俺だけにしか見せんな。触らせんなよ」

桃色に色付いた秘部をぷに、とつつく。
身体をガチガチに強張らせる女に「…脱毛行った時にしか他の奴に見せてねぇよな?」と問うた。

「お、温泉とかでは、…ほら、見えちゃうのはしょうがないでしょ」
「触らせたことは?」
「ないってば! 本当に初めてなの!」
「…自分で触ったことは?」
「………」

女は気まずそうに顔を逸らした。沈黙は肯定の合図である。
松田の脳内を先ほど見た雑誌の『自分で性感帯を開発しよう』の文字が駆け抜けた。
グ、と再び喉が鳴る。この女、どこまでバカ真面目なんだ。エロすぎんだよ。どんだけ俺を追い詰めれば気が済むんだ。──罵詈雑言の嵐である。

「でも、全然わかんなくて…」
「…だったら、イチから教えてやらなきゃなぁ?」
「やっ、待って、」
「待たねぇ」

いりぐちに手を伸ばす。ぬるりという湿った感触に松田は「は、」と小さく笑った。

「濡れてんな」
「な、なんで、ッんん、」
「分かんねぇの?」
「だって…こんなの知らないもん」

雑誌に書かれた通りの手順で触った時は、全く濡れず、痛くて指も入らず「もしかして私って不感症なのかも」と心配になったのだ。だから頑なに松田と身体を重ねることから逃げていた。
しかし、いま彼に触られているソコはぬるぬると溢れんばかりに濡れている。
松田はその事実に「へぇ」と笑ってから、ぷっくりと主張する陰核を親指で軽く撫ぜた。
途端背筋がゾワ、と震え、脚がぴくぴくと跳ねる。

「どこが不感症だよ」
「ん゛ッ! …や、ぁ!」
「むしろお前、めちゃくちゃ感じやすい身体じゃねぇか」
「…んぅ、…ご、ごめ、ッ」
「何で謝んだよ。最高だっつの」

秘部から溢れる愛液で指を濡らし、陰核を優しく擦る。
擦る度に女の口からは甘い声が飛び出し、その声とにちゃにちゃという水音が耳を犯す。
ガクガク身体が震える。──大きな波が、すぐソコまで近づいていた。

「ま、待って陣平、お願い」
「あ?」
「なんかくる…! 怖いの、指やめて」
「落ち着けって。大丈夫だから」
「やッ! 待ってお願い、」
「あー…かぁわい…」
「…あ゛ッ! ッ!」

少しだけ強めに蕾を擦った。瞬間、背中をぞくぞくしたものが一瞬で駆け抜け、大きな快感が身体を貫いた。
じゅわ…と秘部から愛液が溢れ、身体の力が抜ける。全力疾走した後のような倦怠感が襲い、マドンナちゃんは息を弾ませながらくたりとシーツに身体を投げ出した。

「はっ…は、…なに、いまの」
「今のがイく≠チて感覚な、覚えとけよ」
「イく?」
「聞いたことくらいあんだろ」
「ぶ、文献では」
「真面目か? …マいいや。今のは外イキってヤツ。んで今から、」
「ぁッ!?」
「ナカをよくしてやるから」

つぷり。まだ誰にも暴かれたことのないナカに節くれだった指をゆっくり沈めていく。
ソコは十分濡れそぼってはいたものの、初めて受け入れた異物を拒絶するようにきゅうきゅうと松田の指を締め付けた。

「ぁあ!…ん、ッ!」
「キッツいな、食いちぎられそ。…力抜けるか?」
「む、むりぃ………あッ、」

再び親指で外の蕾を撫でられて力が抜ける。
徐々にナカに入った指が馴染み、異物感が快感に変わっていく。
ジワリと脳が溶けていくような感覚に身体の緊張が解けていく。

ゆっくり確かめるようにナカを堪能した松田はもう一本、と二本目の指も沈めた。
ナカを傷つけないように優しく抜き差しして、少しずつ少しずつ丁寧に広げていく。
指が動く度にぐちゅ、ぐちゅ、とはしたない水音が鳴り、次第にナカが咥えた指を受け入れる動きに変わる。

「んっ、! やぁ、…そこだめっ、ぅあ…っ!」
「ここか?」
「ん、そこ、やっ」
「ヤじゃなくて気持ちいい、だろ?」
「ち、がうの………や、まって」

バラバラと蠢く長い指がとある一点を掠めた。「だめ、ヘンなの」と息も絶え絶えに身体を捩る姿に、松田は頬を緩ませて指の動きを早くする。

「あ、あ、…だめ、またヘンなの、くる」
「いいぜ。俺の指でイくとこ、見せろよ」
「ぁ、っ! ああぁあ───ッ!!!」

強めにナカを擦ると、マドンナちゃんはガクガクと身体を震わせて達した。ぷしゅ、とナカから透明な愛液が吹き出し、松田の腕にぱたぱたとかかった。

「ハジメテなのにナカでイって潮まで吹くとか…えっろ…」
「っは…、もうヤだぁ…」
「もうちょっと解さんと俺の入んねぇぞ」

再び動き出した指に、マドンナちゃんはイヤイヤと首を振る。
先ほど気持ちよくなったところを重点的に擦られ、蕾を攻められ、もう片方の手がすりすりと太ももをさする。
一度達したソコは敏感になっていて、あっという間に二度目の絶頂を迎えるのだった。

「あッ、やめ、じんぺ、…あぁぁ───ッ!」
「…あー、えっろマジで」

ずるりとナカから指を引き抜かれて「ン、」と声が出た。くったりと力なく横たわった柔肌を満足気に眺めてから、松田は愛液がかかった自身の指をべろりと舐めとった。

「や…そんな、きたない」
「何がだよ」
「ばか…」

松田は恥ずかしそうに顔を背けたちまい頭をゆるりと撫でた。「あっつ、」と額の汗を拭ってから、借り物のパーカーとTシャツをまとめて脱いで床に放り投げた。
マドンナちゃんは急に目の前に現れた眩しい肌色とがっしりついた筋肉に目が離せなくなり、その視線を感じた松田は少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「…なんだよ」
「あ、ごめん…初めて見たから」
「プールん時も見ただろ」
「確かに…ごめ、緊張して…頭まっしろ」
「これ以上煽るなよ」

性急な動きでカチャカチャベルトを外してズボンも同様に放り投げた。ズボンだけは流石にサイズが合わなかったため、借り物ではなく自分のを履いていたのだ。
残るは紺のボクサーパンツ一枚だけ。マドンナちゃんは初めて見る男性のパンイチ姿に一瞬目を奪われ、不自然に膨らんだボクサーパンツを見た瞬間スグに視線を逸らした。

「ひ、」
「あ?」
「や、なんでも、ない」

男性が興奮するとソコが大きくなる、という知識はもちろんあった。
だが、大好きな人が自分に興奮してくれているのだという事実がこんなにも嬉しく、恥ずかしいものだなんて知らなかったのだ。

「…悪ィ、もう限界」

そう呟いて下着を下ろした松田の其れは、はち切れんばかりに膨らみ、綺麗に割れた腹筋にくっつきそうなほどガチガチに勃ち上がっていた。
肌の色より幾分か濃い色に太い血管がビキビキと浮き出ていて、マジマジと其れを視界に入れてしまった獲物は「ひぇ、」と目をバッテンにして身体を縮こませた。
今から、此れが自分のナカに入るのだと。改めて認知したその行為に、恐怖と羞恥で瞳を潤ませた。

「むり、……」
「あ゛?」
「そんなおっきいの、ぜったい入らないもん…」

熱に浮かされたような表情で煽られ、松田は「ぅぐ、」と息を飲んだ。実際、自分の其れは他と比べて少々大振りではあると自覚はしていた。臨戦態勢の状態で他人と比べたことはないが、今まで見たことがある大人の指南書やそういう類の映像で見るヤツよりかは自身のモノは少し大きいかな…くらいのレベルだと思っていた。

初めての行為に怖気付いたが故の発言だと頭の片隅では理解はしていたが、煽られ耐性のない松田はなけなしの理性が吹き飛んでいくのを感じた。

「…な、こっち向けって」
「ひっ、ぅう、」

吐息混じりに名前を呼んで耳を舐め上げると、マドンナちゃんの体がびくりと跳ねた。形をなぞるように舌を這わせて、時折甘噛みする。

「かわいい」と囁いて再び耳を嬲る。はくはくと息を荒らげる小さな頭をゆるりと撫でた。
ズボンを脱いだ時にポケットから取り出しておいた避妊具の包装を破り、ピンク色の薄い膜をテキパキと装着した。

「…あ、ちょっとちいせぇなこれ」
「え?」
「マ大丈夫だろ」
「ねぇやっぱむりだよ…そんなおっきいの入んないもん」
「無理かどうかは試してみねーと分かんねぇだろ」

根元まで届かない薄い膜に「もう二度と買わん」と文句を言ってから──。今にも爆発しそうな怒張を濡れそぼるいりぐちにピタリとくっつけた。

「…なぁ」
「い、いま話しかけないで本当に緊張しすぎて口から心臓出そうだから」

ガチガチに身体を強張らせて震える女に愛しい≠ニいう気持ちが爆発しそうになる。
松田は軽く額にキスを落とし、震える身体を挟むように両腕をついて再び閉じ込めた。

「本当に怖いなら、やめる」
「え?」
「さっきも言ったけど…俺、お前のことすげぇ好きなんだよ」
「う、うん」
「嫌われたくねぇ」

耳元で囁かれた掠れ声に、マドンナちゃんは大きく目を見開いた。
自分を見下ろす深い色の瞳が苦しそうに歪んでいたのだから。
彼の瞳が灯す真剣な色に自然と呼吸が早まる。ドキドキと心臓が早鐘を打ち、苦しいほどにきゅうきゅうと胸を締め付けた。

「陣平は、途中でやめたら辛くないの」
「お前に嫌われるくらいなら何も辛くねぇわ。…ただ、」
「………」
「俺は、お前が欲しい」

嫌われたくない。
怯えさせたい訳でもない。
ただ、好きになった女の全部が欲しいのだと。

マドンナちゃんは小さく息を吸うと、必死な表情で訴えかけてくる松田の首にギュ、と抱きついた。

「わ、私、」
「………」
「ほんとに、ほんとに怖くて…だって全部が初めてで…その、お付き合いしたのも、手を繋いだのも、キスも、その…い、イったのも…全部陣平が初めてだから…」
「分かってる」
「で、でもね」

身体を起こそうとした松田の首に抱きつく力を強める。離さない。「聞いて」震える声が松田の耳を掠めた。

「ヘンなの。怖いはずなのに、もっと…って思っちゃう。陣平が相手だからかな」
「…それって、」
「わ、私も、陣平のものになりたい」

その言葉に、弾かれたように女の顔を見た。
涙の膜がうっすら張った綺麗な瞳が真っ直ぐに自分を見上げていた。

至近距離で見つめ合う。

腕の中の小さな身体はまだ恐怖で震えているというのに。
羞恥で耳まで真っ赤に染めているというのに。

それでも。

「陣平のものに、なりたいの」

漸く覚悟を決めたのだ。

「あっ、んん、……ぁっ」
「好きだ」
「ぁ、はぁあ………ッ!!!」
「やべ、キッツ……、」

ずぷり。ゆっくり怒張をいりぐちの中に進めた。
指なんかとは比べ物にならないほどの質量と大きさに、マドンナちゃんはギュ、と強く目を瞑った。

「痛いか?」
「ちょ、っと…でも大丈夫」
「痛かったらいつでも言えよ。やめるから」
「や、! やめないで…」
「これ以上煽るのやめろ…!」

痛いのに。苦しいのに。
やっと好きな人と一つになれるという嬉しさでマドンナちゃんは熱に浮かされた表情で松田を見上げる。
その言葉と表情に松田はギリ、と歯を食いしばった。

想像の何倍も温かいナカはうねうねきゅんきゅんと松田を包むように締め付けた。
まるで離さないでと懇願するかのような締め付けにハァ…と息を吐く。

「ぜんぶ、はいった?」
「全然。まだ半分も入ってねぇよ」
「え、む、むりだよ」
「やめるか?」
「や、めない」

マドンナちゃんははくはくと呼吸を荒げながら手の甲で口を押さえた。
痛みはまだ残っているが、それ以上におかしくなりそうな快感にあられもない声が飛び出しそうになったから。
その仕草に松田は「かわいすぎんだろ…」と呟いて、再び歯を食いしばってゆっくりと怒張を進めた。
少し動くだけでネコの舌のようにざらついた内部が松田を擦り上げてくる。

「すぐ持ってかれそうでやべぇ」
「もって…?」
「お前のナカ、マジできもちいんだって」

眉根に皺を寄せた松田の言葉に女の心がきゅんと跳ねた。呼応するように締まるナカに松田は唇を噛み締める。

「頼むから、これ以上煽んないでくれるか」
「煽ってないもん」
「無自覚だからタチ悪ィ」
「あ、ッやぁ!」
「は、…これで全部、入った」

ピッタリと腰同士がくっつく。最奥にぐり、と先端があたり、その痛さに少しだけ眉を歪めた。

「痛い、よな。奥まで入れんのやめるから」
「まって…だいじょぶだから。ちょっと痛いけど、…はぁ…これでやっと、陣平のものになれた嬉しさの方が強いから」
「っ、だから、煽んなって、!」
「ぁッ!…ふ、…ゃあ…!」

耐えていた糸がぷつりと切れた。グン、とさらに奥を突かれて甘い嬌声が口から零れ落ちる。

「恨むなら自分な」
「ん、…、ぁああッ!」

ぬろぉ…とゆっくり抜かれて、間髪入れずに一気に奥まで貫かれた。
視界がちかちかと揺れる。
もう痛みはなくなり、予想も出来ない快感が全身を駆け巡る。
また大きな波が迫ってきて、無意識に爪先が丸まる。

「じんぺ、またヘンなりそ…い、イッちゃいそ、う」
「いいぜ、見ててやる。…イけよ」
「あ、……────ぁあッ!!!」
「ぐッ!」

耳元で囁かれた「イけよ」という掠れ声に頭の中で白い光がぱちんと弾け、マドンナちゃんは身体を弓なりに反らせて達した。
途端ナカがギュンと締まり、強い力で怒張を締め付ける。
その締め付けに一気に吐精感が煽られて、松田は必死に唇を噛み締めてその熱をやり過ごした。
まだだ。まだイきたくない。世界で一番気持ちがいい場所をまだ堪能したいのだ。

「ハジメテで中イキできんの、マジで才能だろ」
「…は、…ァ、…さいのう…?」
「かわいいし美人だしエロいし…最高の女だわお前」
「それほめてる?」
「褒めてる。危うく出そうになった」
「…だめなの?」
「もったいないだろ」
「…ヤ、陣平にも気持ちよくなって欲しいもん」
「あ、オイ!」

マドンナちゃんは「ね、私できもちくなって」と甘えた声を出しながら松田の腰の後ろで足を組んだ。所謂だいしゅきホールド≠ナある。
グッと松田の剛直が奥深くに当たり、また甘い声が飛び出す。無意識なのだろう。先程デスクに置いてあった雑誌にはこのポーズのことは書いていなかった。知識などないはずなのに、無意識に雄を逆撫でする女なのだ。

「もう知らんからな」

頭の奥でぱちんと理性が弾けた。

「ッあ゛! …ん、っ!」
「タチ悪ィ女…ッ!」
「や、ッ、まって! はげしッ!」

松田は盛りのついた獣のように腰を振った。
ばちゅばちゅと水音がなり、それに呼応するようにマドンナちゃんの秘部から潮がぴゅ、ぴゅ、と吹き出る。
奥、いりぐち、また奥…と様々な角度で打ち付けられる腰に目の前がチカチカと揺れた。そんなマドンナちゃんの反応を見ながら「全部お前が悪ィんだからな」と松田は目をギラつかせながら笑う。
揺れる白い胸元に唇を寄せ、何度も吸い付く。点々と咲く赤い華に何度も舌を這わせた。
再びナカがキュンキュンと松田を絞り出すように締まる。そろそろ限界だ、と告げるような挙動に松田は律動を早めた。

「だめ、じんぺ…、また、イッちゃ…」
「俺、も、やベぇ………出るッ!」
「───ぁあ、あ、あぁぁぁっ!」
「………ぐッ、!」

頭が真っ白になる。背中がゾクゾクと粟立つ感覚。
松田が大きくナカで脈打ったのを感じながら、痛いくらいの快感に包まれた。









【お知らせ】

2月12日のイベントに行きたくて「警察学校のマドンナちゃんは猫かぶり 番外編詰め合わせ」が本になります。
今回はR18本です。

この一個前の話(歌舞伎町の女神編)とこの話(初えっち編)の加筆修正版と、書き下ろし↓
・初えっち翌日の朝の話
・初デートに行く話
・もしマドンナちゃんが最初から伊達くんじゃなくて松田くんのことが好きだったら…というif設定の話
・芹沢と廣瀬の話(余裕があれば)
・もう一個くらいえっちなの書きたいな(これは無理かも)

などなどを詰め込んだ本にしたいなと考えています。
全部書くかもしれないしどれか削るかもしれないし何個を一つにまとめるかもしれない。
とにかく、1月30日までに書き終わらないと間に合わない。

え?締め切りやばい?知ってる^^

でもアタシは”や”るから。”覚悟”があるから。
これで新刊落としたら指さして笑ってくれ!!!!



【もいっこお知らせ】

この本書き終わったらいよいよ「警視庁編」スタートです。
違うの。ほんとは警察学校編が終わったあとスグに警視庁編に入るつもりだったの。
でもね、どうしても警視庁入るまでの話が書きたくて。
ていうか初えっちは警視庁入庁前って決めてたからどうしても書きたくて…
許してちょぉだい。ピアノ売ってちょぉだい

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