吊し上げ大会と初デート

2023.2.12
秘密の裏稼業34 にて本になります!
Pixivに掲載済の【交番実習編】【初エッチ編】の加筆修正(約2.5万文字)+書き下ろし(約2.5万文字)の計約5万文字の本となります。


【書き下ろし詳細】
●卒業式直後の話:狂人集団 vs アオハルパワー
 ・マドンナ協会による松田吊し上げ大会の話
 ・マドンナちゃんと親友の話
●初エッチ翌日の話:陽のあたる場所
 ・翌日の朝の話
 ・松田が胃袋を掴まれてメロメロになる話
 ・二人で杯戸町ショッピングモールにデートに行く話
 ・観覧車に乗る話



↓書き下ろしの内、約7千文字を掲載↓
(pixiv掲載用に行間等は変えております。)





【狂人集団 vs アオハルパワー】



「え〜では、『第一回・お前は本当にマドンナちゃんのカレシとして相応しいのか? 面接』を行います」
「「ッシャース!」」
「…………」
「返事ァ!」

 どうしてこうなったんだ。松田はグシグシ眉間を揉みながら「………ハイ」と完全に不貞腐れた返事をした。


 さて卒業式が終わってから数時間後である。

 卒業式直後、マドンナちゃんに自分の気持ちを伝え、彼女の手を引いて戻った松田はひとしきりいつメンたちに祝福された。
 廣瀬は汚いちいかわみたいに泣き崩れ、萩原と伊達は自分のことのように喜び、降谷は少しだけ寂しそうに笑い、諸伏はそんな降谷の肩を叩いた。

 そんな祝福ムードの中、唯一イジってきたヤツがいた。芹沢である。ヤツは警察学校の姫というか女神というか妖精さんというかマドンナちゃんを守る会>氛汳ハ称・マドンナ協会の会長だ。入学式で彼女に一目惚れをし、あらゆる災厄から彼女を守るため、四人の同志と共に立ち上がった。

 マァ一目惚れとはいっても芹沢の其れは信仰≠竍崇拝≠ノ近い感情であり、自分がマドンナちゃんとどうこうなりたいわけではない。純粋に彼女の幸せを願い、そのために日々彼女をいろんなものから守っているのだ。
 マドンナちゃんに邪な目を向ける不届き者を日がな粛清し、マドンナちゃんのおっぱいに顔を埋めたアホンダラをクマさんの刑に処し、ストーカーを成敗し、学園対抗体育祭でも活躍した。そんな努力の甲斐があってか、この半年間マドンナちゃんには健やかな学園生活を送ってもらうことができたのだ。

 そんなマドンナちゃんがとうとう一人の男を選んだ。その男は以前マドンナちゃんのおっぱいに顔を埋めたアホンダラだが、同時に芹沢の親友と呼んでも差し支えのない男だった。また、ヤツはマドンナちゃんのストーカー成敗に誰よりも貢献していた男であるし、体育祭の時には棒から落ちたマドンナちゃんを救った英雄だ。
 ので、芹沢は彼女の手を引いて戻ってきた松田をイジり倒しながらも「マァ、松田だったら認めてやってもいいかな…」と思っていたのだが──。

『会長! ボクらのマドンナちゃんにカレシができたって本当ですかッ!』
『許すまじ松田陣平…この剣の錆にしてくれよう…』
『…会長、俺ァいつでも出れるぜ。GOサインさえくれれば』
『みんな落ち着いて! …でも会長、このままだと他の協会員が納得しないカモ…🥀』

 マドンナ協会幹部室(芹沢の部屋)で幹部四人に囲まれ、「………だよなァ」とヤレヤレ顔で首を擦ったのだった。

 学校を卒業した面々であるが、交番実習が始まるまでにはまだ時間がある。
 それまでの間はまだ学校の寮に滞在してもいいのだ。さっさと退寮して実習先に引っ越す者もいるが、芹沢含め幹部メンバーは全員ギリギリまで学校の寮に残ることにしている。

 ちなみに幹部たちは全員、芹沢と同様に入学式でマドンナちゃんに一目惚れして大騒ぎした結果、誰よりも早く罰則を喰らったバカ共である。お互いのことは役職名かコードネームで呼び合い、各々キャッチコピーとマニフェストを掲げている。


 会長:芹沢ケイジ(唯一の本名)
 キャッチコピー:マドンナちゃんに全てを捧げた英雄
 マニフェスト:マドンナちゃんの結婚式でリングボーイ

 副会長:シンパチ(悪口)
 キャッチコピー:地味眼鏡ツッコミ委員長
 マニフェスト:マドンナちゃんにいつか認知されます

 参謀:ルシファー(自称)
 キャッチコピー:厨二病でも恋がしたい
 マニフェスト:妖精の騎士となり正義の剣を振るいます

 掃除屋:ウシジマ(酷似)
 キャッチコピー:汚イ仕事、請ケ負イ
 マニフェスト:何デモヤリ

 いきものがかり:ピータン(好物)
 キャッチコピー:サイコパス似非ヒソカ
 マニフェスト:みんなを笑顔にします🌷(狂気)


 イカレたメンバー紹介のようになってしまったが、彼らは本気の本気で大真面目である。大真面目に崇拝する天使のために三十人を超える協会員たちを束ね、日夜活動をしているのだ。

『でもカレシになった男、あの松田だぜ? それ以外に適任いるか?』
『会長が松田を信頼してるのは分かる。…ケド松田って優秀だけど喧嘩っ早いだろ? マドンナちゃんが心配だ』

 芹沢の言葉に一番に突っかかったのは掃除屋のお兄さん
ウシジマくんだ。本名とは何ら関係のないコードネームだが、某闇金融漫画の主人公にソックリなのでこのコードネームが付けられた。何なら本家のウシジマくんよりもイカつい。身長は二メートルを超す大男であり、その丸太のような腕でマドンナちゃんを邪な目で見る不届き者を成敗してきた。ちなみに趣味はガーデニングであり、マドンナちゃんと植物しか愛せない悲しきモンスターだ。

『キミには言われたくないと思う』
『あ?』
『何でもないです』

 ウシジマくんにイヤミを言った副会長は邪眼に睨まれて一瞬でシオシオまんまるになった。彼は貴重なツッコミ要因なのだが、如何せん地味で語気が弱い苦労人なのだ。いつもこうやってウシジマくんに虐められる。

 そんなウシジマくんに自称博愛主義のピータンが「イジメやめなよ🌼」とダレノガレ明美の言い方で制した。彼は唯一の良心(自称)でありながら、「世界中の人と仲良くなって布教すればいつかマドンナちゃんの国ができるんじゃないか🌷」という危険思想も併せ持つ男だ。ちなみに語尾にお花をつけて喋る癖がある。ほぼヒソカさんだと思っていい。

『イジメじゃねぇだろが』
『言い方変えるね。血の気が多いのやめな🌼』
『クク、血の気か…俺の好きな言葉だ』
『(無視)ヤでもマジで松田がカレシで大丈夫か? ちゃんとマドンナちゃんを守り通す覚悟≠ヘあるのか?』

 参謀であるルシファーが「アッ無視しないで」という顔でウシジマくんを見た。彼は重度の廚二病患者であり、また誰よりも繊細でめんどくさい男である。そのキャラをやめればだいぶ周りからの扱いが良くなるとは思うのだが、如何せん魂がまだなろう系小説の世界から戻ってこないので仕方ない。ちなみに愛読書は、ムーニーマン・ゲンジ先生の『聖・ソーセージ学園のマドンナちゃんが地味な小生なんかに惚れる訳が無い!』だ。

 そんな濃ゆいメンバーを纏め上げるのが、我らがマドンナ協会会長・芹沢ケイジである。いつメンと一緒にいる時は中身スッカラカンのボケ男だが、彼もまた類い稀なるカリスマ性を持っているのだ。

『…確かに。オレだけの判断じゃ誰も納得しないよな』

 幹部たちも芹沢と同じくらいマドンナちゃんを信仰している。いくら尊敬する我らが会長が認めたとしても自分の目で確かめないと気が済まないのだ。それに、幹部たちもそれぞれ部下を持っているので、後日部下たちに説明する義務があるのだから。

『…面接でもすっか』
『賛成』
『やります…か』
『やろやろ🌷』
『クク、楽しくなってきやがった…ヤレヤレ』

 芹沢の言葉に幹部たちは意気揚々と立ち上がり、

『天誅! 松田ツラ貸しやがれ!』
『あに(なに)? オイ芹沢やめろ引っ張んな!』
『伊達クン、ちょっと松田クンのこと借りるね』
『お前誰だ?』
『マドンナ協会副会長のシンパチだよッ! 何回か訓練で一緒になったじゃないか!』
『オウ萩原、松田借りるぜ』
『ウシジマちゃんじゃない。持ってっちゃって〜』
『助けろハギてめぇ!』

 伊達の部屋でダラダラピザパーティーをしていた松田をひっ捕え、面接会場である空き教室に拉致したのである。

 ちなみに拉致されていく松田を助けようとする情の厚い人間などは一人もおらず、

『…なぁ、マジで今のヤツら誰だったんだ?』
『マドンナちゃん絡みでしょ。ウシジマちゃんはよく合気道の授業で一緒だったから知ってるけど、確か協会の幹部って言ってたから』
『あの眼鏡は?』
『知らない』
『なぁ伊達、松田の分のピザ僕が食べていいか?』
『ゼロ、タバスコ取って』

 アホの顔をしてピザをハフハフさせているのだった。

 というワケで、松田は訳も分からず空き教室のド真ん中にあるパイプ椅子に座らされている。松田の目の前には五人の男たちが長机越しにズラリと並び、偉そうにふんぞり返って松田を睨みつけていた。ちょうど就活の最終選考、役員面接のような構図である。




<<略>>



【陽のあたる場所】



 あったかいなぁ。

 とろとろと心地の良い微睡みの中でゆっくりと目が覚めた。
 
「…ん、…えぇ!?」
「…るっせ…なんだよ」

 ぱち、と目を開けたマドンナちゃんの視界いっぱいに広がったのは整った童顔。
 衝動的に飛び起きて、その身に何も纏っていないことに気付き慌てて掛布団を手繰り寄せた。

「あー…いま何時」
「わ、わわわ、」

 マドンナちゃんの大声で目が覚めたのか、真横で呑気に寝ていた男が迷惑そうに眉根に皺を寄せながらのそりと起き上がった。

 起き上がった拍子で男の肩から掛布団が滑り落ちる。現れた肌色にマドンナちゃんは「ピャ」と乙女の声を上げながら口元まで掛布団を引き上げて固まった。

 男はそんな乙女を一瞥もせずに筋張った腕を伸ばし、枕元に置いてあるスマホを手に取って電源ボタンを押す。液晶の明るさに「ん」と顔を顰めてから、表示された時間を確認して再びのそのそ布団の中に戻って行くのだった。

 ──腕の中に、未だカチコチに固まったままの乙女を閉じ込めて。

「じ、じんぺ…」
「まだ明け方の四時じゃねーか…寝んぞ」
「離してよ」
「…あ? なんで…」
「だって…」
「……あったけぇ…」

 松田はむにゃむにゃと曖昧な言葉を呟きながら厚い胸板に乙女の頭を押し付けた。
 すうすうと能天気な寝息が頭上で聞こえ、マドンナちゃんは目をバッテンにさせて「むうう」と唸る。
 抜け出そうと身を捩っても、自分を捕える力強い腕はビクともしない。乙女の脳内で、昨晩松田から囁かれた「絶対離さねぇ」という言葉がグルグルと回った。

 頬に触れる愛しい人の体温。
 何も纏っていない背中に回された力強い腕。
 トクトクと脈打つ、自分とは違うリズムの鼓動。

「〜〜〜ッ!」

 脳内で、昨晩の光景がツギハギに流れ、乙女は声にならない声を上げながらモジモジと身悶えた。唯一自由に動く足を少しだけばたつかせて、自分を抱きしめるあたたかな体温に擦り寄る。

 昨日、この人に抱かれたのだと。
 自分の純潔を捧げて、この人の愛を受け入れたのだと。
 今まで感じたことのない幸せをもらったのだと。

 改めて昨日の行為を思い出して顔に熱が集まる。恥ずかしさと嬉しさがちょうど半分ずつで、どっちつかずな表情で唇だけをモニモニ動かした。

「すき」

 無意識に言葉がぽろりと零れ落ちる。慌てて口を噤んだ。
 自分を閉じ込める男が「ん」と返事をする。起きてたの!? と固まる乙女の身体を更にキツく抱きしめ、むにむに嬉しそうに口角を上げた。

「すきだ」

 耳元で聞こえたドロドロの甘さを孕んだ掠れ声に乙女の心と頭は一気に沸騰し、とうとう二度寝のチャンスを逃してしまったのだった。



△▽



 それから数時間後。

 能天気に寝こけていた松田は自分の横にいるはずの愛しい女を抱きしめようと腕を伸ばし──、その手が空を切ったことにより一気にガバ! と起き上がった。

「…あ?」

 自分が寝ていたのは紛れもなくカノジョのベッドの上であり、パステルカラーの遮光カーテンの隙間から射し込む光で照らされる室内は確かにカノジョの寝室だった。

 ヒクリと鼻を震わせる。香ばしい匂いがリビングの方から漂ってきたからだ。
 松田は逃げられた訳ではないことに胸を撫で下ろすと、のそのそベッドから這い出しパンイチ姿のまま扉を開けた。

「あ、起きたの? そろそろ起こしに行こうかなって思ってたの。おはよ」

 眩い朝陽に照らされて笑いかけてくる女の姿に、松田は朝の挨拶を忘れて「…あー」と声を上げた。
 なぜなら、『かわゆいエプロン姿で鍋をかき混ぜる愛しいカノジョ』という、世の中の男が全員憧れる光景が目の前に広がっていたのだから。

 夢か? え、俺まだ寝てるのか? と寝癖がついた癖毛を掻き回す。鍋に視線を落とすエプロンの天使をしばらく眺めてから、ぺたぺた歩いて華奢な後ろ姿に抱きついた。

「わぁ、な、なに」
「…起きた」
「う、うん。…おはよ」
「いま何時」
「八時ちょっとすぎだよ」
「腹へった」
「と思って朝ごはん作ってるからちょっと待ってね」
「んー…」

 曖昧な返事をしながら、カチャカチャ味噌を溶く女の手元を覗き込む。
 鍋の横のフライパンの上には炒め途中のきんぴらがテラテラ光っていて、食欲を唆る甘香ばしい匂いが鼻を擽った。

「ね、陣平、動きづらい」
「ん」
「ん、じゃないの。シャワー浴びてきたら? 寝癖すごいよ」
「んん」
「もう、聞いてる?」

 エプロンの天使が手を止めて振り返る。ゆったり空いた首元から見えたのは真っ白の柔肌に点々と咲く赤い華。

 マジマジと其れを眺める松田の視線に気付いた天使が恥ずかしそうに俯いた。

「…かぁわい」
「もう、思い出させないで」
「やなこった」
「いじわる」
「その言い方ソソる」
「ばか!」

 ぽす、と胸のあたりを弱い力で殴られ、唇に皺を寄せて笑いを堪える。

「なんで笑うの」
「笑ってねぇだろ」
「笑ったもん」
「笑みが溢れただけだ」
「へりくつ!」
「なんとでも言え。…シャワー浴びてくる」

 掌の上で遊ばれた女はムスッとした顔で「…昨日の服、洗濯乾燥して脱衣所に置いてあるから。あと、ぱ、パンツもさっきコンビニで新しいの買ってきたからそれ履いて」とモニモニ告げた。拗ねている癖にちゃんと事務連絡は怠らないところに、クソ真面目な性格が表れている。

「マジでいい女だな」
「またバカにした」
「してねぇって」
「もう!」

 口を尖らせて再びぽかぽか叩こうとする女の拳をひらりと躱してから、松田はグッと背を丸めて丸い額に掠めるようなキスを落とした。

「…っとに、好きだわ」
「〜〜〜〜〜ッ!」

 バッと額を抑えて悶える女の耳元で「顔真っ赤でやんの」と意地悪く笑うと、漸く松田は脱衣所に向かうのだった。



<<略>>



 さてそれから一時間後。ショッピングモール近くのオープンカフェである。買い物がひと段落ついたため、少し遅い昼食がてらこのカフェで休憩することにしたのだ。

 頼んだナポリタンを完食した松田は食後のコーヒーを啜りながら、目の前で一生懸命小さく切ったホットケーキを口に運ぶマドンナちゃんを眺めていた。
 さっきまであんなに無表情でナンパたちを無視していた姿から一転、チマチマホットケーキを頬張る顔は実年齢よりもずっと子どもっぽい。

「…あに(なに)? あげないけど」
「いらねぇよ別に。ガキっぽいと思っただけだっつの」

 マドンナちゃんは拗ねたように「む」と顔を顰めてから再びホットケーキを口に運ぶ。しかしその仕草から先程までの一生懸命さは消え、フランス料理のフルコースをいただいているような優雅な仕草になった。今しがた松田から言われた「ガキっぽい」に腹を立てたのだ。

「見てて飽きねぇわ、ほんと」

 松田は唇に皺を寄せて笑いを耐えた。笑うとまた怒られると思ったから。

「…わ、あの子綺麗…女優さんかな」
「え、どこどこ。……ほんとだ、オーラやばい」

 オープンカフェのテラス席。通行人から再び視線が集まり、松田は「スゲェなコイツ」と一周回って感動さえ覚えた。大勢の視線を集めてなお、マドンナちゃんは全く気にせずホットケーキをモチモチさせていたのだから。

 ──しかし。

「目の前のカレシもイケメンだし…え、ドラマの撮影かな?」
「本当だ、かっこいい…ドラマだったらカレシ役≠チてことだよね」
「メアド渡しちゃう?」

 松田を見た女の子たちのヒソヒソ声を聞いたマドンナちゃんの耳がぴく、と動き──、

「陣平、やっぱ一切れあげる」
「は? いらねぇって…むぐ、」

 メープルシロップがデロデロにかかったホットケーキを強引に松田の口に捻じ込んだのだった。

 さっきまでは「あげないけど」と頑なだったのに。この女、自分のカレシがキャアキャア言われているのに嫉妬したのである。

「……テメェ…無理矢理突っ込むたぁいい度胸だな」
「別に。欲しそうに見てたじゃない」
「いらねぇって言ったろ……マ、いいけどよ」
「なに」
「なんも?」

 じろりとこちらを睨んでくる女に松田は肩を竦めて頬杖をつく。かわいいヤツ。[[rb:あの>・・]]外ヅラに命をかけていた女が自分の前ではこんなに素を出してくるのだ。嬉しくないわけがなかった。

「かぁわい」
「むかつく!」
「かわいいついでに今日限定で何でも言うこと聞いてやるよ」
「え?」
「デザート追加するか? どこ行きたいとかあったらどこでも連れてってやるし何か欲しいモンあったら何でも買ってやるよ」
「え、え、なに急に」
「かわいいカノジョに尽くしてぇの。分かれよ」
「えっと…」

 マドンナちゃんはアイスティーをズズと吸いながら困った声を出した。[[rb:あの>・・]]ぶっきらぼうだった男がどろどろに甘やかしてくるのだ。戸惑わない訳がなかった。
「好きだ」と告げられる前とは大違いなのだ。付き合い始めてから若干甘くはなっていたのだが、今日の松田は本当におかしい。

 それを問うと、松田は少しだけバツが悪そうな顔をしてを掻いた。

「…取られたくねぇんだって」

 昨日、マドンナちゃんを抱いて改めて「好きだ」と再認識した。今朝なんて起きた時に隣に彼女がいないだけで頭が真っ白になり、その後胃袋を掴まれメロメロになってしまったのだ。しかし街に出れば彼女はすれ違う全員から見られ、何人もの男に声をかけられそうになり──、本気の本気で焦っているのだった。
 ので、自分の気持ちを隠さないことに決めた。こういう気持ちを口に出すのは恥ずかしいし、今まではそういう類の男を「ダッセ」とバカにしていたのだが心を入れ替えたのだ。絶対にこの極上の女を誰にも取られたくない。松田は生まれ変わったのだった。

「だから何でも言えよ。叶えてやる。北海道でも俺は行くぜ」
「ヤ、北海道はいいや」
「じゃあトロピカルランドか? 女はみんな好きだろアソコ」
「…あ」

 トロピカルランドという言葉にマドンナちゃんがぴくりと反応した。

「行くか? 今から向かっても十分遊べんだろ」
「や、そうじゃなくて…あれ」
「あ?」
「あれ乗りたい」

 マドンナちゃんがテラスから見えるショッピングモールを指さした。正確には、ショッピングモールの屋上に建つ観覧車を。

「大観覧車か」
「だめ?」
「ヤ、全然いいけどよ。トロピカルランドじゃなくていいのか? アソコにも観覧車あるし他のアトラクションだって…」
「あれがいいの。ずっと乗ってみたかったから」

 きらきらと目を輝かせるマドンナちゃんに松田は「無欲な女」と笑って席を立った。もちろん伝票を持って。



<<略>>




────サンプルここまで────



2/12 東4ホール ソ07a 「とっとこ保育園きりん組」にてお待ちしています。

お品書き:[[jumpuri:こちら>https://www.pixiv.net/artworks/105086286]]
新刊サンプル(画像):[[jumpuri:こちら>https://www.pixiv.net/artworks/105086284]]

『警察学校のマドンナちゃんは猫かぶり【番外編詰め合わせ】』
 松田陣平 × ネームレス女主人公
(A5 / 74p(表紙含む) / R18)

▽イベント頒布価格:600円

▽内容
『警察学校のマドンナちゃんは猫被り 続章』
→pixiv掲載の[[jumpuri:交番実習編>https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19029470]]、[[jumpuri:初エッチ編>https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19146858]]の加筆修正(約2.5万文字)
 +書き下ろし(約2.5万文字)収録

▼書き下ろし詳細
●卒業式直後の話:狂人集団 vs アオハルパワー
 ・マドンナ協会による松田吊し上げ大会の話
 ・マドンナちゃんと親友の話
●初エッチ翌日の話:陽のあたる場所
 ・翌日の朝の話
 ・松田が胃袋を掴まれてメロメロになる話
 ・二人で杯戸町ショッピングモールにデートに行く話
 ・観覧車に乗る話


▽通販ページ:後日(通販開始時期などはツイッターにて告知します!)


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