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離れないでって言えばいいのに



俺に背を向けて扉に縋りつくなまえをみて、言いようのない気持ちが昂ぶるのがよくわかった。

でも今回はなまえが悪い。なまえが悪いんだ



「もういらない・・・・!」


泣きながらなまえが投げ捨てたものは、俺とおそろいのピアスだった。びっくりしてなまえを見ればなまえは目に涙を溜めて、床に跳ねて転がったピアスを目で追っている

それは突然のことだった。

別に前からこうしてヒステリックに泣くこともなければ叫ぶこともなかったなまえが、今日ばかりは初めて声を荒げた。当然俺は驚きで固まったし、なまえはよほど悲しいのか大声で叫んだにも関わらず声が震えているのがバレバレだ。

次いでなまえは言う


「リンクなんか!リンクなんていらない!リンクからもらったもの全部・・・・!」

「急にどうしたんだよ、」

「リンクはいらない、リンクなんて知らないから、私、トアル村なんていらなくて、」

「・・・なまえ?」

「私、私・・・・・!」


城下町に、行く、から

そう言ったなまえの言葉が、何度も俺の頭の中でリピートされた。は?城下町?

意味がわからない。意味はわからなかったが、イリアの名前が度々出てくるのを聞いているとたぶん、俺のことを誤解しているのだろうと思った。前からイリアとの関係に嫉妬することがあったなまえはついに耐え切れなくなったのだろう

そうとはわかってはいても、イリアとの関係は切れない。それはなまえだってわかっているはずだ

いや、わかっているからこそ、自分から離れようとしているのかもしれない


「城下町?・・・・なぁ、それ本気で言ってるのか?」

「本気も何も、リンクから離れるためにはこうするしかないでしょ!丁度城下町に知り合いが出来たの、その人のところに行く!」


なんだ、その知り合いとやらは。一体誰だ。男か?

もやもやとしたものが胸を徘徊しているような気持ち悪さがこみ上げて来る。俺がいらないと言っているなまえにも大概イラッときているが、その城下町にいる知り合いとやらに対しても嫉妬が醜く膨らんでいくのがわかった

妄想はやめろよ。いつだって俺が最優先に考えて優しくして守ってきたのは、なまえだっていうのに

俺に背を向けて俺の家から出て行こうとするなまえを引きとめようとするが、なまえはまた声を張り上げた


「っ、いやだりんくなんてきらい!もうさわらないで!」

「・・・・・・・は?」


嫌い?

プツリと何かが切れたような音がして、俺は無意識に右手を振り上げた

無理矢理こちらに振り向かせて殴りつけたなまえの左頬が、青くなる。なまえは突然のことに対応できず、しりもちをつくこともできなかった。鈍い音を立てて床に倒れこむ彼女はすぐに怯えた瞳をこちらに向ける

あぁ、どうしよう。俺そんな趣味、ないはずなんだけど

・・・・その目、ゾクゾクする


「城下町に行く?知り合いのところ?なぁ冗談だろ。撤回しろよ。俺のことが嫌いだってこともここを出て行くってことも全部全部撤回しろ」

「ひっ・・・・!」

「なぁ」


優しく頬を両手で包み込めば、短く悲鳴をあげるなまえ。先ほどまでの威勢はどこへやら、情けなく涙を流しながら首を何度も縦に振る彼女に、自然と口元がつり上がるのがよくわかった

そう、それでいい。

俺の元から離れるなんて、冗談でも言っちゃ駄目だろ


「悪いようにはしないよ。大人しくこれからも、俺に捕まっててくれよ」


家の扉に縋りつくなまえの首根っこに手を伸ばした


逃げようとするなんて、さぁ