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 #「心配しただけだ」



シンドバッドは悩んだ。

ここ最近のコナギを見ていると、どうもルフが彼女に干渉しようとしているようでどうしようかと考えているのだ。最初は全くの別の世界から来た人間だったものだから、ルフは近づこうともしなかったというのに。

この世界に居すぎたのだろう。世界の一部として彼女を取り込んでしまおうとしているのだ。


「もう危険かもな・・・・」

「早めに決断したほうがいいですね」


ジャーファルも隣でうなずいた。

そもそもどうして異世界から彼女が来たとわかったのかと言えば、それは前科があったからであった。実は彼女がこの世界へ来る前、もう一人女性がこちらの世界へと足を踏み入れてしまっていたのだ。

その女性はさほど長い期間こちらに居たわけではなかったが、シンドバッドはその女に恋慕していた。彼女が帰るときに引き止めたい気持ちはあったが、そのときはまともに言葉をかけることも出来ずにみすみすと帰してしまったのである。

思えばあの時無理やりにでも引き留めていればよかったものを・・・・

後悔したとて彼女がこちらへと来ることはなく、代わりにコナギが迷い込んできてしまったのだが。元の世界へ戻るための扉が、実はシンドリアの国内にある。コナギはすぐにでも帰ることは可能だ。

だがマスルールがそれを許しはしないだろうと思うのだ。

彼はシンドバッドが別れを選んで後悔ばかりしているのを知っているし、何より意外とひとつのことに執着してしまうと、離れなくなるところがあった。その代わり何か一つに執着することなどほとんどない。けれどもマスルールはコナギを手放すつもりはないようだ。

執着しているのだろう。

シンドバッドは、何度目かもわからない溜息を吐いた。


▲▽


助けてもらったことには感謝している。一使用人である私が喚いたところでエルゼさんは戻ってはこないし、だからもう彼女のことは考えることもしなくなった。

煌帝国への出張は行かずとも良いと王直々に言われて、体調があまりよろしくないのを見かねてだろうことはわかっていたので食い下がることはしなかった。が、何もマスルールさんまで王宮に残る必要はなかったと思うんだよね。

そう思いながらも隣にいるマスルールさんを見上げる。一昨日王たちがシンドリアを出たので、帰ってくるのは今日の夕方あたりだろう。


「マスルールさんはどうして、煌帝国へ行かなかったんですか?シャルルカンさんに行かせなくともよかったと思うんですけど・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・別に」

「面倒くさかっただけとか?」

「そういうわけではない」


だったらどういうわけなんだ。

不思議で首をかしげながら、まあ本人が言いたくないのならばしつこく問い詰める必要もないか、と目の前の食事に目を向ける。しばらく無言で食べていたのだが、ふとマスルールさんは呟いた。先ほどの話の続きのようだ。


「心配しただけだ」

「・・・・・誰を?」

「コナギを」

「王宮にいれば安心でしょう」

「それでも不安だった」


彼がここまで言葉にするのは珍しいな。と、思ったから。

私は曖昧にうなずいて、それから「心配してくれてありがとうございます」と言った。



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