#「毒を盛ったやつだ」
何故かわからないけれどマスルールさんがすごく怒ってる。どうしよう・・・・
目の前で仁王立ちしているマスルールさんを見上げてから、すぐにサッと視線をそらした。めっちゃ怖い顔しなすってる!
「犯人の名前を聞いた」
「・・・・・?」
「毒を盛ったやつだ」
マジかよ。
ちなみに誰から聞いたのか訊ねたらルディさんの名前があがった。まあしかし、しょうがないかなぁとも思う。毒を盛られてあまつさえ魔法で知らない場所に飛ばされたのだ。前科があれば今回のことだってエルゼさんの仕業だと考えるだろうし・・・・どこをどう考えても転移魔法を使える魔法使いは少ないし、エルゼさんくらいしか思い浮かぶものではないけど。
笑いながら心配をかけたくなかった、と言えば、マスルールさんは顔を顰めた。
「毒の話をしていれば、飛ばされることもなかったかもしれないだろう」
「でも、エルゼさんの話をしていたら、エルゼさんはきっと王宮からいなくなっていた」
「何も問題はない」
「問題しかないんです。マスルールさんの専属をするのはきっと、他の方々の世話をするよりも骨が折れるでしょう。でもエルゼさんは出来る人だから、残ってもらわなくちゃいけないんです。マスルールさんのためにも!」
そう叫んだ。私がこの世界から居なくなるとして、心残りなんてほとんどないだろう。楽しかった日々にさようならをするのも心残りにはならない。寂しいだけだ。けどマスルールさんとは仲良くなった。一緒にご飯も食べるし、遊ぶこともする。だからこそ、それだけ親しくなっておいて最後には軽く手を振るだけでは終われない。
心配だと思った。この人はとても強いが、やはり日常生活での仕事やそういったことに関して、付き人は必要だ。それが今のところエルゼさんしか務まる人がいないものだから、私もちょっと考えているのだ。
「私が帰ったら出張について行く人間がいなくなるんですよ!?エルゼさんを手放すのは惜しいでしょう!戦えて、尚且つあの人は知識もたくさんある!」
「あぁ」
「そんな人を、マスルールさんは捨てる気ですか・・・・!?」
他人に毒を盛るような輩が居ては、王宮も不安だろう。だがあの人はそもそも私がこの世界に来なければこんなことはしなかっただろうし、マスルールさんをとられたくないだけなのだ。まあいずれ私がいなくとも誰かに毒を盛ったりしていたかもしれないが・・・・(あんな性格だし)
悶々としたままマスルールさんを見つめると、マスルールさんもまっすぐに私を見る。エルゼさんをどうか専属からは外さないでくれと願っていたのもつかの間、マスルールさんはとんでもないことを言い放った。
「あいつはもういない」
「・・・・・・まさか」
「あの女は追放した。王宮を出入りすることはできない」
私は口をぽかん、と間抜けに開けたまま、唖然とするほかなかった。
あまりにも事が急に進んでいて、理解が少し追いつかなかった。追放したということは、二度とエルゼさんがここに戻ってくることはないのだ。確かにそれをされても仕方がないことを彼女はやってしまっているが、それでも。
本当に困ってしまった。
困惑した顔を思わず隠せずにいると、マスルールさんは私を抱きしめて、髪に鼻先を埋めた。少しじゃれるようなそれに、やはり私は咎める言葉も出せずにただただ頭が痛くなるのを感じた。
緩やかに拘束されはじめていることには、ちっとも気づかずに。
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