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 #死ねばいいのに。



マスルールさんに冷たくしていた間の出来事を、話した。マスルールさんはよほど寂しかったのか、仲直り(別に喧嘩してたわけではない)したあとからは、休日でも出勤日でも割と近くで過ごすようになっていた。

買い物をしているときに後ろからついてくる様は、まるで大型犬のようにも見えて可愛い。


「マスルール様」


しかし今日も今日とてマスルールさんの世話をしたりするのはエルゼさんなので、私はもう諦めてマスルールさんの服を持っていくことも、起こすことも、何もしなくなった。あぁ、マスルールさんが私の近くにいるようになったのは、このせいなのかもしれないな。私はマスルールさん関連の仕事がほぼとられているので、マスルールさんが会いに来てくれなければきっと、一日中会わないことだってあるだろう。

会いに来てくれるくらい好かれているのだと思うと、悪い気はしない。だから、邪険に扱うこともなかった。


▲▽


女の顔はさえないものであった。整っているわけではない容姿はバカにされてもいいくらいのものであったが、女特有の性格や雰囲気のおかげで周りの人間からはわりと好かれているように見えた。

別に、それが気に入らないわけではなかったのだが

私は今日もあの女を見て、歯噛みせずにはいられなかった。


「マスルールさん、これあげますよ。おいしいらしいです」

「あぁ。有難う」


女は自分の手元にあった朝食の中から、スープの入った皿を選び、それをマスルールの元へと滑らせてる。マスルールもそれをなんともない顔で受け取り、感謝の言葉を述べた。

仲睦まじい光景であった。

かつてあのマスルールが、こんなに年頃の女の子と仲良くしたことがあっただろうか?そう思うくらいには、仲が良かったのだ。私が知らない間に、あの女はマスルール様の懐に入り込んでいた。

許せない、と思ったのは確かだ。

女よりもマスルールの傍にいた時間は長いものであったはずなのに。エルゼのほうがマスルールのことは知っているはずであったのに、気づけばあの女は突然現れて、マスルール様に気に入られ、今ではマスルール様がどこへ失踪しているのかもわかるようにまでなっている。

正直、嫉妬しかしていない。周りから優しくされているからという理由ではない。あの女が、マスルール様に近づいているのが悔しいだけ。私が手にできない場所を、彼女はいともたやすく手に入れていた。

どうして?あの女はとても弱い。戦うことも出来なければ、頭の回転が速いわけでもなく、知識が豊富なわけでもない。マスルール様がそんな女性を望まれているわけではないことはわかっていたけれど、それにしても、あの女には何があるというのか。

ある程度の力があり、知識も女よりはある。そんな私より無能な女を選ぶのはどうしてなのか。わからない。

二人そろって食堂を出て行った彼らは、私に気づくことなくそのまま仕事をしに行ったのだろう。最近は女が掃除をしているときも、洗濯をしているときも、マスルール様はその女の傍にいらっしゃることが多いので、余計に腹が立った。

羨ましくて、妬ましい。いっそあの女なんて消えてしまえば。

何度そう思ったことか!

けれども現実は変わることなどなく、今日も今日とて私がマスルール様を起こしても表情ひとつ変えないというのに、女の前になるとひとたび小さな笑みを浮かべる。憎い、そして何よりツライと思った。


死ねばいいのに。

そう呟いたら、マスルール様と会話をしていたあの女が、ふとこちらに目を向けた。



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