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 #離れてもらっては、困るのだ。



朝、いつもはコナギが起こしに来るというのに、来なくなった日。何故かとても寂しく感じていたのは覚えている。彼女が来なければ朝食をともにすることもなく、朝食の時間に目が覚めて起き上がることもなかった。

否、目は覚めていた。

毎朝彼女に決まった時間に起こされるものだから、どうやら体が起きる時間を覚えてしまったようで勝手に起きてしまうのだ。いつもはコナギに声をかけられてから起き上がっていたのだがそれもなく、朝食も食べたり食べなかったりでまちまちであった。

食べなかった理由は、コナギがいないからだった。ともに食事をすることが当たり前になっていたマスルールにとって、彼女のいない朝食は別にとる必要もなかった。朝食を食べる際にする彼女とのやりとりが居心地がいいものであっただけで、間食であればいつもしているし、朝食をとらなかったからといって、腹が空きすぎて困ることなどないのだ。

しばらくすれば彼女が起こしに来てくれるようになったので、また少しの間、彼女と朝食をとる日が続いた。

けれどもそれは長くは続かずに、とうとうコナギは態度を突然変えてきた。

似合わない言葉遣いを駆使し、礼儀と作法を極めてマスルールに接してきたのだ。つい先日まで友人というには近すぎるくらいの人間が、改まった態度で、距離を置いてきたのだから驚いた。正直怯んでもいたのだが、人間関係をうまく自分から修正しようとして出来る人間ではないので、マスルールはコナギに話しかけることが出来ないでいたのである。

その代わりといってはなんだが、エルゼがマスルールの傍にいるようになっていたので、別段生活に何か大きな問題があるわけではなかったのだが、それは最初だけだったようで。

次第にイライラするようになった。マスルールがイライラしたまま鍛錬をすれば、地面が大きく抉れて、物が破壊された。周りの兵士も怯える。鍛錬相手は殺されるんじゃないかと思うくらいだ。

態度も変わる。ジャーファルはマスルールがいつもより忙しなく森や海などを行き来していることを知っていた。ジャーファルが何をそんなにそわそわしているのか。どうしてそんなにイライラして、落ち着きなく動き回っているのか聞いたら謝罪が返ってくる。

これはおかしいと思ってマスルールを半ば監視に近い形で、周りの人間は見ていた。

そうしたら使用人で、仲が良かったコナギが冷たくマスルールに接しているのを見たとの報告があり、まさか喧嘩したんじゃ、とも思っていた。結果は違ったが。

マスルールとしては嫌われていないことがわかっただけでも、安心ものなのだが・・・・・コナギはどうも悩みに悩んでいるようで、本当に困ったようにしていた。

屋根に連れ去ってからというもの、しばらくは沈黙が続いたが、マスルールがしびれを切らして声をかける。


「コナギ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

「話ぐらいはしてくれ。俺にわかるように」


でないと、このまま冷たくされるのは嫌だった。マスルールは真剣に言う。どうして俺から離れようとしたんだ。何があった。何かあったのは間違いないんだろう?

コナギはなんとも気まずそうに、けれども視線を右往左往させながらもうなずいた。


「あの、マスルールさん」


しかしすぐに視線をマスルールに定めると、恐る恐る名前を呼ぶ。それから、思っていることをたずねたり、きいたりしてみた。


「私は、こうやってマスルールさんを、まるで友人のように思って接しています。態度も言動もそれと似たようなものでしょう。けれどもそれが失礼なことであるとも私は知っていました。マスルールさんがいくら敬語でなくてもいいと、そう言われても、こんな態度はとるべきではなかった」

「そうか」

「マスルールさんは、私がそんな軽い態度で接したこと、許してくれますか」


許すも何も最初に許可を出したのは俺だったはずなのだが・・・・・

深くはあまり考え込まないのがマスルールだったので、そう思いながらも申し訳なさそうにうつむいているコナギの頭をつかんだ。そして顔をあげさせる。

正直に言うとコナギがこうやって、マスルールのことで悩んだりすることは、マスルールは実は好きだった。勝手に彼女のお菓子を食べたら彼女は怒りながら自分を探してくれる。あまつさえ構ってもらえるので、子供じみたそれに自覚は多少あったもののやめられなかった。

彼女を困らせるのが好きだ。しょうがないと最終的に許してくれるその甘さも、怒るときは怒るところも、普段は口こそ荒いものの根は優しいところも、好きだ。最近ではめっきりそういったことをしてくれる人間は少なくなっていたし、だからこそ余計に新鮮で楽しかった。

離れてもらっては、困るのだ。


「お前は、俺と距離を置こうと考えてあんな態度をとったんだろう」

「冷たいと思いました?」

「あぁ。だが俺とお前が離れる必要はない。エルゼに何か言われても俺がこう言ったと話をしろ」


それでもまた冷たく離れようとするのならば、俺にも考えがある。

そう言って目を細めれば、コナギは少し怯えたように、一瞬だけ瞳を揺らした。



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