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 #「いけにえ!?」



決意をしてからというもの、ことあるごとに丁寧な仕草、言動を心掛けるようにした。

マスルール様、と呼び、決して最近ではしていなかった、浅いものではなく深いお辞儀も毎度するように。そもそも仲が進展していなければ、所詮私とマスルールさんはこんなものだったんだとしみじみ思う。

様付けで呼ぶたびに、冷たく使用人の態度をとるたびにわずかに寂しそうにしているマスルールさんには罪悪感しか残らなかった。気づいているのに元の態度に戻さないのは、やはりマスルールさんとうまく関係を取り持っていくよりは、エルゼさんとのギクシャクを最低限に抑える方が良いと考えているからだ。

私はなんとしても使用人をやめるわけにはいかない。こんな世界で一人でいられるわけがないのだから。エルゼさんの癇に障って、あることないこと言われて仕事を失うのは一番怖い。

あの人ならやりかねないだろう。

しかも聞いてくれ。あの人に言葉遣いのことを言った日、お前の妄想だろうと笑われた。マスルール様はそんなことを仰らないと言って、妄想と現実の区別もつかないのかと鋭い口調で言い放ったのだ。

さすがにパンチをお見舞いしてやろうかと思ったのだが、まあいい。どうせこいつともそう長い付き合いにはなるまい。

ケッ!とあの女の背中に変顔で唾を飛ばしたい衝動に駆られる毎日だが、なんとかなっている。前の世界に戻る前に、こいつにだけは何かしてやろうと思っているのでやり返しを考えておかなければ。今までさんざん私の洗った洗濯物を地面に落としやがったり、私の近くでわざわざ食器を割って私のせいにしたり、恨みはいくらでもあるんだぞ・・・・今にみてろよ!!

一人で(心の中で)荒れ狂っていると、ふと気づく。ジャーファルさんとシャルルカンさんが目の前から走ってきた。

えっ?と一瞬驚いたが、何やら二人は私をにらみつけるようにして、走る速度を緩めようとはしない。な、なんだ!?敵襲か!?それとも私、何かしたのかな・・・・・?

怖くなってくるりと踵を返したものの時すでに遅し。両脇をがっしりとホールドされては悲鳴をあげるほかなかった。


「ヒィッ!!?」

「確保しましたよジャーファルさん!どうするんスか!?」

「このままマスルールのもとへ連れて行きますよ!!あの調子じゃあ困りますから!」


な、なんだと!?


「マ、マスルール様のもとって・・・・!ちょっ、離してください!!行きたくないぃぃいい!!」

「我儘言わないでください!私たちだって好きで貴方を生贄にするわけではないんですから!」

「イケニエだコナギ!!」

「いけにえ!?」


なんだその物騒な言葉は!

つい言葉が崩れて、それでもなお叫ぶ。やめろと言っているのにもはや地に私の足はついておらず、両脇を抱えられ捕らえられた宇宙人のようになっていた。えっこらえっこらと運ばれるがまま連れていかれたのは外の鍛錬場。

しかしなぜかいつもと違った。

広範囲にわたって、でっかい円形状に陥没している。

私は唖然としてその光景を見渡した。


「・・・・・・・・・仲直りしなさい」

「え?」

「仲直りをしろと言っているんですよ。はぁ・・・・・・」


いや、別に喧嘩してないし。何をどう仲直りすればいいんだ。そもそもこのでっかい穴はなんだ。

よくよく見つめなくともマスルールさんが穴の中心にいることはわかる。だからマスルールさんと仲直りしろとジャーファルさんが言っているのも、なんとなくだがわかる。しかし本当に、突然、なぜ?

どうすればいいかよくわかっていなくて、シャルルカンさんのほうへと視線を向けた。それに気づいた彼は気まずそうに視線をそらして口を開く。


「あー・・・・まあ、なんだ。喧嘩してんのかよくわかんねぇけどよ、お前がマスルールを避けはじめたくらいだったか?機嫌悪ぃんだよあいつ」

「・・・・・・?」

「なんか理由があんのかもしれねぇけど、このままじゃあ困るし・・・・・・何よりあいつが寂しそうだ」


見ろ。機嫌悪すぎて穴があいてやがる。

いやそれは見てわかるんですけどね!?


「私のせい!?」

「貴方のせいなんですよ!!そもそもどうしてマスルールを避けるような真似をするんですか!?どうせしょうもないことで喧嘩したんでしょう!?」

「え、でも私、今までマスルールさんと喧嘩したことないですよ!?しょうもないことで喧嘩するほど、マスルールさんとはバチバチしてないですって!」

「・・・・・は?」

「はあ?」


シャルルカンさんとジャーファルさんが首をかしげる。

私は勢いにのってつい口に出した。


「私はマスルールさんとは喧嘩してません。私が喧嘩してるのはエルゼさんとですよ!!」


そう言ったら、いつの間にか近くに来ていたマスルールさんに肩を叩かれた。振り向いた瞬間荷物のように抱えられたので、これからどうやら二人で屋根に上るようだ。気まずくて死にたい。



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