#「お前が来なかったからだ」
マスルールさんが朝食を食べているところを見なくなった。
いや、きっと私が来る前までは決められた時間に朝食をとることなどしていなかったのだろうが、やはり時間は守ったほうがいい。生活リズムを考えてもあの人は少々崩れがちだし・・・・・・あれだけ激しい特訓もしているのならばなおのこと、朝食というものは大切である。
まだマスルールさん、寝てるのかな?
しばらくはエルゼさんがマスルールさんを起こすと言って有無を言わさぬ空気だったので、私は何もせず見ていた。しかし私とて専属の使用人であることは確かなのだから、起こすのだって別に、私がしても問題はないだろう。
というか彼女が戻ってくるまではそうしていたのだ。マスルールさんを無理やり起こしたからといって、蹴り飛ばされるわけでも、世界が滅ぶわけでもなし。(考える規模がでかいとか知らぬ)
「マスルールさん、入りますよ」
ノックをしてから声をかけ、扉を開ける。返事をしてくれないことが度々あることを知っていたので、割と使用人のくせに無遠慮に部屋に入った。
マスルールさんはベッドに寝転び、こちらに背を向けている。
「マスルールさん、朝ですよ!」
「・・・・・・・・」
「起きて下さい!!朝ごはん食べないとダメですよって、何回言わせるんですか!?」
久しぶりに起こしに来たのもあって、割と前よりは優しめに起こそうとする。が、肩をゆすっても反応がないので、あれ?と思って、マスルールさんの顔の真正面へと移動した。
そしたら目が開いてた
「起きてんじゃねーですかおはようございます」
「・・・はよ」
「なんで少しも反応しなかったんですか・・・・・目開いてるなら起き上がってください!!ほら、召し物もエルゼさんが用意してくださってますから!」
「着替えるから後ろ向け」
「いや部屋出ますよ普通に」
「そこにいろ」
「なんの嫌がらせですかね?」
「別に見せつけるわけじゃないだろう」
「・・・・・別にいいですけど」
マスルールさんがベッドから離れたのを見計らって、くるりと後ろへと体を回転させる。それにしても最初のころは、朝起きてすぐはずっと無言であったのに、今では会話ができるようになったなぁとしみじみ思う。彼の寝起きが良くなってきたのだろう。これも成長のひとつだ。
朝から会話をするのも大切だと思うから。本人はあまり喋る気が起きないとかなんとか言ってたけど。
朝起こすことを続けてきた結果が今、ここに・・・・!とちょっと感動していると、マスルールさんから振り向いてもオッケーの言葉がかけられたので、マスルールさんのほうへと体の向きを戻す。
「どうして起きていたのに、ご飯食べに来なかったんですか?」
「お前が来なかったからだ」
「エルゼさんが起こしに来てくれてたでしょ」
「あいつを寄越すな。・・・・・無理にとは言わないが、コナギが起こしに来てくれると嬉しい」
「なんですかそれ。その言葉は嬉しいですけど、」
そこまで言いかけて、ふと止める。マスルールさんがこんな風にいうのだから、もしかしてエルゼさんと何かあるのかもしれない。何もないかもしれないけれども。
仲が悪いのか?と少々疑問に思いながら、それ以上は考えることはしなかったし、言葉をつづけることもしなかった。
「・・・・そういえば、久しぶり?ですね!マスルールさんと朝食を頂くのは」
「そうだな」
「またマスルールさんと食べられるのか〜」
ちょっと嬉しいなぁ。マスルールさんの食べっぷり、すっごい好きなんですよね。
にやけた顔でそう言うと、マスルールさんはそっぽを向いてしまった。なんでだ。私がマスルールさんに好きとか言ったから、気持ち悪がられたのかな?傷つくぞさすがに!
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