#「はあ!?」
突然だが聞いてくれ。仕事がない。
何ふざけたこと言ってんだと思うだろう。バリバリ社会にて働く人達にこんなこと言ったらパンチのひとつや二つ、お見舞いされそうなものだが・・・・嘘は言っていない。探せば仕事なんてたくさんあるだろうと言われそうでもあるのだが、それが、ない。仕事がないのだ。
どうしてかっていうとまあ、簡単に言えば原因はマグノシュタットから戻ってきた女の人のおかげなんだけれども。
「あの、ルディさん。追い出されたんでそっち手伝います」
「はあ!?また!?」
「すみません・・・・・」
「謝る必要ないわよ!それより、なんでまた追い出されたの。今度は何言われたの!?」
「いえ、特には何も・・・・・」
マグノシュタットから帰ってきた使用人というのが、どうにも気の強い女性であった。名前はエルゼという人なのだけれど、とても可愛らしい顔立ちの女の人だ。すごいこわいけど。
怒ったように眉を吊り上げたルディさんは、次第に困ったような顔をする。実は私がするべき仕事もエルゼさんがしてしまうので、こういったことは珍しいことではなくなっていた。実に四日前にエルゼさんと初めて顔を合わせ、仕事を共にさせてもらおうと思っていたが、その四日前から私はマスルールさんに会うことも出来ずにいる。
自分がやろうと思っていることに手を出されたくないのか。よくは分からないが、とにかく私がマスルールさん専属として仕事をしようものなら、すっごい睨みつけてくるし、因縁もつけてくる。なので、初日で無理に手伝おうとすることはしないほうがいいと学習した私は、ルディさんのもとへ追い出されるようにして来るのが当たり前になりつつあるのだ。あまり良くないことであるとは、頭ではわかっているのだけれども。
「そもそもなんであの人は、一人で全部やりたがるんですか。マスルールさん大好きなんですか」
「そうよ?知らなかったの?」
「え?」
今冗談で言ったつもりだったんですけど!?
「はあ!?」
「噂か何かですでに知ってるものだと思ってたわ。エルゼはマスルール様のことが好きすぎてしょうがないのよ。だからマスルール様の専属として働くのは、自分だけでいいと思ってる節があるわ。独占欲が強いのかしら」
「でも・・・・それだと私、マスルールさんのお傍から離れなければならないですよ?なんというか、ちょっとそれは寂しい気が・・・・」
「無理もないわ・・・・歳は近いし、仲もすごくよかったものね。王に相談してみたほうがいいかもしれないわよ」
いや、さすがにこんな問題で、一国の王を困らせるわけにも・・・・・あの人のことだから話は聞いてくれるだろうが。どうしたものか。
ルディさんとその他の使用人仲間が洗い終わっていたシーツを、持てるだけもって歩きはじめる。ルディさんも私と同じようにシーツの入った容器を抱えて足を動かし始めた。
しばらく二人して無言で歩いていたのだが、ふと、ルディさんが呟く。
「おかしいわね」
「・・・・・・ん?なにがですか?」
反応してもいいものかちょっと悩んだが、反応してみる。ルディさんは一度言い淀んだものの、すぐに話をつづけた。
「えーっと・・・・これは言った方がいいのかしら・・・・・?」
「?」
「あのね、今までこうなること、なかったのよね」
「え、何がですか」
「こうやって何もかも仕事をやらせずに、他の班に追いやるのって。さすがのエルゼもそこまではしていなかったわ」
つまりあなただけが、エルゼにこんな扱いをされているのよ。
そう言われて、マジかよ人一倍嫌われてんじゃねぇかと不安になった。この先うまくやれる自信がないから、しばらく頑張って、無理そうだったらマスルールさんの元から離れよう。エルゼさんはすごく仕事ができる人だから、一人になったとて問題はないだろう。
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