別に羨ましいなぁと思ったことがないわけではない。
「ブサイク」
「なんだとこの野郎」
私とイリアとへの態度なんてそう大差ないもんではあるけれど、やはりかけられる言葉の種類はあきらかに私の方が悪口ばかりであったし、イリアへは褒め言葉ばかりであった。どうしてかなんて考えるだけ無駄だ。事実、私は見目がすごく整っている二人とは違い、顔はブスで体型も決していいとは言えないものだった。
リンクに綺麗だとか可愛いだとか言われたいわけではない。やはりリンクからの評価がそれであるのならば、他の男の子から見てもそうだと思うから、段々と自信がなくなっていくのだ。
だからって、どうしようもないんだけど。
今日も今日とてリンクの軽い悪口を軽く受け止めながら、綺麗に流していく。彼は何を思って私に毎回こんなことを言うんだろうか?と考えたこともあったが、やはりよくわからない。けれども、彼との言い合いで、喧嘩腰に冗談で言い合って笑いあうだけで済むのならいいのだが、たまに頭にきてしまうときもある。そのときに言ってはいけないのが、
「もう、なんで朝からリンクに会うの・・・・」
「俺だって別に会いたいわけじゃない。なんで好き好んでお前の顔見なきゃいけないんだよ」
「見なきゃいいでしょ」
「嫌でも視界に入るんだ」
「あーあーすみませんねぇ!どうせ顔デカイですよ小顔じゃないですよ悪かったな!」
「そこまで言ってないだろ。被害妄想?」
「ねぇ、今日はやけに突っかかってくるけどなんなの?ほんと嫌い!」
嫌い。この単語は、リンクにはNGなのだ。
ハッとして笑顔で取り繕おうとするも時すでに遅し。リンクの目つきが途端に鋭くなり、思わず後ずさった私の腕を力強く掴む。
どうしてか、彼はこれだけ私にブスだのなんだの言うくせに、私がいざ嫌いというと豹変するのだ。それは数年前からそうであった。私に対してだけなのかはよくわからない。だって、イリアがリンクに嫌いだと言ったことはないから。比較の仕様がないのだ。
けれどもこれは昔から思うことだけれど、異常だと思う。
冷や汗がぶわりと出はじめて、このまずい状況をどう切り抜けようかと頭をフル回転させる。そもそもなんで嫌いだなんて言ったんだ!自分!
「俺のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃ、ない」
「嫌いなんだろ」
「嫌いじゃない、ってば」
「じゃあなんで目合わせないんだよ」
いつもより低い声に、呼吸でさえもが一瞬詰まる。そんなの怖いからに決まってるでしょう。こうやって脅してるのはリンクなのに。目なんか見れるわけがない。
漠然とした恐怖に指先が震えはじめると、それを視界に捉えたリンクはふと、笑う。
それにゾワッとした恐怖の波が押し寄せてくるのを感じた。
「俺の事、怖いんだよな。でもこのまま怖がられるのはちょっと困るんだ」
「こ、こわくない、こわくない」
「下手すりゃ逃げられる可能性もあるし・・・・・」
「逃げる・・・・?」
「まあその時は逃げられないように、何かしらすればいいか」
足か目か・・・・無くなるの、どっちがいいんだろうな?
ヒッと小さく悲鳴をあげて恐怖に顔をゆがめる私を、彼は今まで見たこともないような表情で見つめていた。それは愛おしむ様な、慈しむような、そんなものだった。