「君はまだ、僕のことを好きで居てくれてる?」
何気ない質問なのだろう。彼はその形のいい唇でそんな言葉を紡いだ。かくいう私はその質問に少々不安になって、急にどうしたの?と逆に質問を質問で返した。けれども彼はそこには触れずに目を伏せる。
「愛しすぎた人間には嫌われるってどこかで聞いたんだ」
「それは気持ちが重くなるからじゃない?」
「どういうこと?」
「ほら、やっぱり束縛とか。嫉妬ばかりされて八つ当たりされても、愛されたほうだってそんなことばかりされてたら嫌いになるよ。そういうことでしょ?」
よくわからないけれど、たぶんそうだと思う。
自己解釈で勝手にリンクに教え込んではいるが、正直どうなんだろうか。まあそういった意味深な言葉に頭を悩ませるほど私は関心があるわけではなかったので、適当に流そうと思っていた。でも、と思う。私が常日頃リンクに対して抱いている想いというのは、そう軽いものではない。
もしこれを、この想いをすべて吐き散らしたら、リンクは耐えきれずに私を嫌うのだろうか?
考え始めると意外と不安になるもので、けれどもなんとなく、そう、なんとなくなのだけれど、リンクがどれぐらいの重みに耐えられるのか少し知りたくなった。
例えばリンクを殺したいだとか、食べてしまいたいくらい愛してるとか、抱き潰したいとか呟いても、彼はその持ち前の深く広い心で受け止めてくれるのだろうか。
私はぽつりと、言葉をこぼした。
「例えば、だよ。私がリンクに、貴方の心臓を食べたいって言ったら引くでしょう?」
「・・・・・・・・・・」
「リンクの目が欲しい。その綺麗な顔に噛みつきたい。抱きしめてそのまま潰してしまいたい」
私の醜い愛はぽろぽろとこぼれる。貴方はきっとおいしい。美しい人だから、それが赦せない。誰も彼もを虜にしようとする貴方は私のモノではいてくれないのでしょう。
私だけを愛してほしいのに、貴方のその綺麗な瞳は他人を移すのよ。
普通の女だと思ったら大間違い。私はリンクをこれから一生離すつもりはないし、自由にしてやる気もない。死ぬときだって一緒だよ。そう思っているの
こんな私は重たいでしょう?
「そう思っていたら、逃げたくなるでしょ」
これだけ想っていてもあなたの隣に一生居られる確信は得られないのだから、もうずっと胸は苦しいままだ。愛してる、愛してる、殺してしまいたい。ずっとずっと、愛の重みに苦しんでいるのは自分自身だった。
リンクは黙って私を見つめる。
例えとして話しているので、さきほどの私の言葉が本当のものであるとは受け止められないだろう。けれどもたとえ話だったとしても気持ち悪いものだったはずだ。恐怖だって感じるかもしれない。笑って流してくれたらそれが一番いいのだ。
だから私から笑った。リンクは何も言わないから、怖くなってへらりと「たとえ話だからね?」と言った。
「本当にそう思ってたら、引くよね」
「・・・・・・・・・・ふーん」
「リンク?」
じゃあさ、とリンクが今度は話し始める。
「これはたとえ話じゃない。本当の僕の気持ち。君がさっき言った例えばの話が本当だったらなって思うよ」
「・・・・・・・え?」
「ななしが僕のことを殺したいとか、僕の心臓を食べたいとか、そう思ってしまうくらいには愛してくれてると嬉しいな」
もう一度言うけど、これはたとえ話じゃなくて本当の僕の気持ちだよ。引いた?
リンクは笑みを浮かべながら「僕はななしの心臓、もらえるなら貰いたいなぁ」と呟く。どうやら恐ろしく逃げたくなるのはリンクなのではなく、私のような気がしてきた。