【R18】 本心と、その答え


※暴力、無理矢理の描写あり注意。  



 どれくらいの時間が経ったのだろう。
 此処に連れ戻されてから随分と日が経ったような気もするし、ほんの少ししか経ってないような気もする。
 此処は酷く時間の感覚が曖昧だ。
窓は閉ざされ、何かで打ち付けてあって光を遮断している。
 食事もほとんど摂ることができず、俺が気を失うまで暴力と凌辱が繰り返され、肉体的にも精神的にも限界だった。昔は何てことなかったことなのに、人の温かさを知ってしまった今は、痛みが何倍にも増したように感じられて、辛い。

「…トール…」

自分からあの家を去ったというのに、我ながら未練がましい。
あの時、俺を狙った刺客が家に入り込んできた、あの瞬間…過ぎったのは愛しい恋人に凶手が忍び寄って、命を奪うのではないかという恐怖。
幸いあの時トールは仕事に出ていたから良かったけれど、もしも…もしも怪我を負ってしまったら。そんな最悪な出来事が思い浮かんで、身体が震えた。
トールは強いし、頼りになる。怪我もすぐ治る。けれど不死身じゃない。大怪我をして帰って来て、俺が近くの病院に走ったことだってあるんだ。
あの時の、トールの青白い顔と、流れる真っ赤な血の色は、消えることなくまざまざと記憶に残っている。
二度とあんな目に遭わせてはいけない。
 だから俺は自分の意思で、組織に連れ戻された。
 トールを守るため…ふふ、違うね。俺のためだ。俺の我儘なんだ。俺のせいでトールに辛い目に遭ってほしくないっていう、俺のエゴ。

「あいつはお前を探していない」
「…」

ボスが低く、甘い声色で囁きかける。
本当に人を絶望の淵に立たせるのが上手いと思う。

「お前の愛しい相手を一目見ようと、使いを遣ったんだがな…お前たちが暮らしていたあの町で、奴はお前を探しもせずのうのうと暮らしている」
「…」

嘘だ。トールはそんなすぐに切り替えられる人じゃない。

「のうのうと、は語弊があるかもしれないな」
「…」
「あの男は毎日酒を飲んでは酔い、路地裏で寝泊まりをしているらしい」
「…え」

俺が反応を示すと、ボスはにやりと嫌な笑いをした。
しまった。罠にかかった。
なるべく無心になって、ボスの話には耳を傾けないようにしていたというのに。

「まだ夜は冷える。しかしあの男はなかなかに頑健だな? 未だ凍死には至っていないようだ」
「…、」
「どうしてお前を探そうとしないんだろうなぁ…? 酒場の店主にはお前のことを聞かれて、『もう、いいんだ』と伝えていたようだが」
「そんな、こと…」

 もういい?
 俺のことは、もう、要らない?
 必要ない?

「お前が思うほど、お前は愛されていなかったようだな」
「…ちがう…」

 愛してくれた。こんなクズな俺のことを、たくさんの愛で包み込んでくれた。俺のことが可愛いって、クズじゃないって、いいところがたくさんあるって、…俺のことが愛しいって、そう、言ってくれた。

「お前は私の元に帰ってくる運命なんだ」
「…や…っ」

ボスが俺の手をとり、起き上がらせる。
体中が鬱血と、噛み跡と、それからぞっとするような様々な体液で汚れている。
 ああ、なんて汚れた身体だろう。

「お前は私のものだ」

抱きすくめられ、抵抗をする。
でも逃れることは叶わず、俺は腕に走った痛みに顔を顰めた。

「や…!それは、も、やだ…っ」
「ラフルが大人しくするのなら、使わなくてもいいんだがな…」

 冷たい液体が血管を通って、全身に駆け巡っていく。そして俺の意に反して、体中がカッと熱くなっていく。
 ああ、商品の子たちもこんな風に恐怖に慄きながら入れられていたんだ。

「あ…っ、う…ひ…っ」
「ほら…身体の方が正直だ」

ボスが俺の昂ぶりを撫でさすり、脇腹を辿って胸の尖りをかすめる。
それだけで身体がびくんと反応し、感じてしまう。
ボスは俺の反応に気を良くしたらしく、カリカリと尖りを引っ掻く。
嫌なのに、他の人に触れられるだけで心が死にそうになるのに、身体は浅ましくねだってしまう。この疼きを収めて欲しいと、目の前の存在に縋ってしまう。

「ラフルは此処が弱いな…」
 
 耳孔を舌で舐られ、後孔の入り口を指で撫でられる。
 それだけで気持ちいい。

「ああ、そんなに欲しいのか?ひくひくしている…ふふ、見てごらん、もう2本も指が入ってしまった…」
「あ…!ひゃ、う…ああ…っだめ、だめぇ…っ」
「お前は、私のものだろう?」

 頭を振りかぶり、熱を逃がそうとしても上手くいかない。違う、違う、嫌だ。こんな交わり、したくない。怖い。気持ち悪い。嫌だ。嫌。嫌。

「…言え。お前は私のものだと」
「い…や…」
「言え!」

 ボスが俺の首に手をかける。
 苦しい。怖い。嫌だ。

「お前は…あれだけ躾けたのに分かっていなかったんだな…」
「か…っは…!」

 体重をかけられ、息が出来なくなる。
 このままでは本当に死んでしまうかもしれない。

「…−」

 意識が遠のく。
 楽しかった日々が思い起こされる。
 色々なことがあった。俺が我儘で振り回したことも多かった。それでもトールは嫌な顔ひとつせず、俺を受け入れてくれた。どんな俺でも愛しいって。全部欲しいって。
 俺も同じ。トールからされることなら、何だって受け入れる。大好きだから。愛してるから。すべてが欲しいから。
 でも今の俺はこんなにもボロボロで、汚い。堂々と胸を張って会えるような身体じゃなくなってしまった。前から綺麗ではなかったけれど、今の状態はとても酷い。裏切りだ。不貞行為だ。

 意識を手放す淵で聞こえたのは、遠くで響くような、轟音。
 また外で民衆と軍がやり合っているんだろうか。
 そんな益体のないことを考え、深淵へと沈んでいく。

 もしも叶うのならば、たったひとつだけ叶えてほしい。
 我儘をもう言わないから、困らせたりもしないから、お願い、一目だけでいいから会わせてほしい。それだけでいいから。蔑まれても、どう思われてもいいから、もう一度だけ、会いたい。

『…ラフル!』

そうやっていつものように呼んでくれたら、俺はいつ死んでもいい…
 頬を涙が伝う。とめどなく溢れてくる。
 ……違う。
違う、違う違う!
 本当は、本当は…また抱きしめてほしい。微笑みかけて欲しい。優しい口づけを交わしたい。その存在を身体中で感じたい。
 離れるなんて嫌だ。ずっとそばに居たい。一緒に生きたい。トールの隣に居られるのなら、俺はどんなことにだって立ち向かっていけるから。
だから、ねぇ、お願い。

「…とー、るっ…、た、…す…、け…、て」


 意識を手放した瞬間、その部屋が轟音と共に開かれたことを知るのは、もう少し先のお話。





終?


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