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徹夜2日目 ※保バスの場合※



その日カラ松の足取りは軽かった。久しぶりすぎる定時上がりで、翌日は休み。しかも嬉しいメールがあったからだ。



「カラ兄!ひさしぶり!」

「ひさしぶりだな唐松!大きくなったなあ」


それは従兄弟の唐松が遊びに来るというものであった。


「お前ももう高校生かあ。俺も年をとるはずだな」


小さい頃からの唐松を知っているせいもあってか、そんなじじくさいことを考える。


「そういえばお前、高校は『いっちゃん』のいるところにしたんだっけ」

「ああ! 赤塚高校だ!」


『いっちゃん』という人間に直接の面識はなかったが、唐松が幼い頃からなついている近所のお兄さん的な人で。今は赤塚高校の養護教諭をしているらしい。それを追いかける形で、唐松は赤塚高校に入ったという。


「でも学校ではちゃんと『松野先生』って呼ばないといけないし、あんまり俺とばかり話すわけにもいかないんだって」


つまらなそうに唇を尖らせる従兄弟に、萌えないはずがなかった。

だってカラ松は初めてこの従兄弟から話を聞いたときからずっと『いっちゃん×唐松』推しなのだ。それをいっちゃんのいる高校に入るんだとか言うものだからあの時は萌えすぎて死ぬかと思ったし、今も軽く死にそうなのである。


「まあ、先生だからなあ」


一人を特別扱いするわけにもいかないだろう。それでもうちの従兄弟のことだけはどうかこっそりひいきにしてほしいものである。などと腐男子は考える。


「俺だってわかってる・・・・・・でも、さびしい」


子供のように拗ねてみせるくせに、寂しげな表情はどこか大人びていて。子供だった唐松もだんだん大人になっていくのだなと。それがほんの少し寂しく思えた。






カラ松が従兄弟から聞いた『いっちゃん』という人物は唐松の隣に住んでいる青年で。年は唐松の10上で、小さい頃からよく遊んでもらっていたらしい。彼の両親は共働きだったから、家にひとりになるような時はいっちゃんの家に世話になることも多かったという。

いっちゃんはよくおやつにホットケーキを焼いてくれるらしい。それは、唐松の記憶が確かなら、最初は黒こげのぺちゃんこだったという。でも幼い彼は喜んで食べて、いっちゃんはそれを申し訳なさそうに見ていて。次に焼いてくれたときからもう、絵本でみるようなふわふわのホットケーキだけが現れるようになったそうだ。きっと唐松に内緒で練習したのだろう。


だから唐松は黒こげのホットケーキのことを覚えてると本人に言わないのだと、こっそりカラ松に教えてくれたことがある。本当はあの黒こげも美味しかったんだけど、いっちゃんが嫌がるだろうから。



唐松はとにかくいっちゃんが大好きで。小学校を卒業するくらいまではずっと「いっちゃんと結婚する」「いっちゃんをお嫁さんにもらう」なんて言い続けていた。

だからてっきり「近所のお姉さん」だと思っていたのだ。わりと最近まで。

まさかそんなBL展開だったなんて最近まで気づかなかったのだ。

当時知ってたらリアルタイムにお嫁さん発言に萌えられたというのに。



だがここからが本番だ。

唐松はいっちゃんを追いかけるように高校を選んだ。そこで今までの近すぎた距離が離れて、それがもどかしくて寂しくてたまらなくなる彼が爆発するのもそう遠くないだろう。もっと俺を見てと迫る唐松をいっちゃんはなだめるも、きっとこらえきれずにキスをしてしまって。ぼくの好きとお前の好きは違うんだ、と。更に距離が開いて。

唐松は悩んで悩んで、やっと答えを出すのだろう。小さい頃にとっくに出ていた答え。いっちゃんと結婚する、と。



そんな妄想が実現するはずがないけれど。

まあ、妄想するだけだから許してほしい。




「きっといっちゃんも唐松と話せなくて寂しいって思ってるさ」











壁一面に貼られた唐松の写真。

盗聴器から聞こえてくる声に、「ごめんね唐松、寂しい思いさせちゃって」と呟くいっちゃんの姿を、知る人間は今のところいない。





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