版権2 | ナノ





少年に答えた『誰か』は神様でした。
神様は少年にそっくりの顔で彼の前に姿を現しました。
「僕は神。どんな姿にもなれるんだ」
それから次は少年の両親や友達へと姿を変えて見せました。
「すごい」
それでなんとなく気に入ったからと少年の姿に落ち着いた神様でしたが、鏡に写したようにそっくりでした。
「それでね、僕は君にお願いがあるんだ」
神様が人間にお願いをするなんておかしな話です。

「僕はずっとずっと1人でここにいたんだ。君が本当にいらない子なら、どうか君の魂を僕にくれないか」

そうすれば少年は死ぬことなく(といってもその時点で死んでしまうのですが)ずっと神様といられるというのですが、なんだかピンときません。
それよりも少年は自分に――自分と自分の兄弟達によく似た、神様を見ていいことを考えついたのです。

「僕が死んだ後、魂をあげてもいいけど。その前に僕の弟にならないか?」
「弟に?」
「僕達は五つ子。おんなじ顔が五つあるんだ」

そう言っていたずらっぽく笑う少年に、少し考えてからいいよと神様は答えました。

「じゃあお前の名前は『一松』。僕はカラ松。僕らは今日から六つ子だ」

その日から松野兄弟は六つ子になりました。
一松は神様というだけのことはあって、不思議な力で周りに『自分は六つ子の1人松野一松だ』と暗示をかけてしまいました。
少年は一松と一緒に色々ないたずらをして、一松を兄弟の1人だと思い込むようになりました。暗示を直接かけられたわけではないのに、カラっぽカラ松はすっかり一松が神様であることも、自分の魂を一松にあげる約束も、何もかも忘れてしまいました。
彼が覚えていたのはただ、一松が自分にとって特別な存在であったことだけなのです。



◆◆◆


「そうか」

跳ねられた体は強くアスファルトに叩きつけられたせいか酷く痛む。死ぬ前に走馬灯のように見えるという思い出にはどれも一松がいた。いや、一松ではなく神様だった頃の一松か。

死ぬのだろうと、頭の片隅で思う。
だって痛いし。今までに経験してきた痛みの中でとびっきりなのだから。

自分は一松を傷つけてしまったのだ。彼の唯一であることだけを覚えて、彼が神であることを、彼の孤独を忘れてしまったから。
自分は本当に馬鹿だなあと呆れてしまう。
だけど、これでようやく正しく一松の隣に行ける。この魂を一松に差し出せば彼は永遠に一松の隣にいられるはずだ。
だとしたら死ぬのも素敵なことだなあとのんきに考えるけれど。やはり最期に一松の姿をこの目にしたい気もする。魂だけの存在になってから嫌というほど近くにいられるかもしれないけれど、それとこれとは違うのだ。

「いち、まつ」

そんなことを考えていたらまるで心を読み取りでもしたかのように目の前に一松が現れて。

「俺の、魂は、お前にやる」

もういらないかもしれないけれど、とは怖くて続けられなかった。
カラ松が最期に見たのはただただ悲しそうな一松の表情だった。






「一松兄さん」

いつもにこにこ笑っていた弟はこの時ばかりは真剣な表情で。

「僕らの兄弟を連れてかないで」

勘のいい彼はいつから知っていたのだろう。

それで、神様だった何かは気がつく。
あの少年はやっぱり必要とされていたのだと。
自分なんかが手に入れていいものではなかったのだと。
本当はすぐにわかっていたのに、諦めたくなくて、一緒にいたくて、どうしても欲しくなって、結局ずっとここにいたのだ。
それでも少年は気付かないまま、人間の生を終えてしまった。

ふわふわと自分の周りをさまよう魂をどうするか、悩んでいたのだけれど。

「違うよ――カラ松兄さんだけじゃなくて、一松『兄さん』も連れてかないでほしいんだ」

弟のお願いを聞いてやるのが兄だとあの少年は言っていた。そうして自分もずいぶんとわがままを聞いてもらったものだ。
では、自分も『弟』の願いを叶えるべきなのかもしれない。



――そうして神様だった何かはこの世から消えた。





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