短編 | ナノ


そう、女性は俺の母親だった。ただし彼女は半年前に亡くなったはずだった。

「母さ……」
『次は屋上で一緒にサボったり、タバコ吸ったりしてほしいわ。あと夜の校舎の窓硝子を叩き壊して回ったりとか……やっぱりずる休みは不良への第一歩よね。我が息子がそうなってくれてお母さん嬉しい!』
「母さ……」
『でもねこの子友達いない子だから天使君だけは理解してあげていて欲しいの。悪い子じゃないのよ。小動物には優しいし』
「かあ……」
『あーもう嬉しいわー。お母さん息子にグレてもらうのが夢だったのよ。でもほら、あなた優しいじゃない? 母子家庭だからって私に苦労かけないよういい子になっちゃって……私が死んでも全然グレてくれないし。だけど天使君に頼んで正解ね。立派に不良への第一歩を踏み出してくれたのね』
「半年ぶりに対面したんだからもっとしんみりいこうよ、母さん!」

ていうかこの人こんなテンションな人だったっけ?
もっとか弱くて守ってあげなきゃいけない感じの人じゃなかったっけ?

「……彼女は、息子の将来を心配して、ここまできた」
『このままじゃグレないんじゃないかと思ってね』
「……母さん」

それなら安心してくれ。母さんが来ようが来るまいが、俺はグレないから。


『でも、本当は会いたかっただけかな。元気してるみたいだけど、無理してない?  無理にいい子にならなくてもいいのよ。アンタは変なとこ真面目ですぐ溜め込むんだから』

そう言った瞬間、母さん株が元の位置まで上昇した。
やっぱり母さんは母さんだ。死ぬ前と何も変わってない。俺の、母さん。

『それで天使君なんだけどね、こっちで一人暮らししてるらしいんだけど料理できなくて外食ばっかりらしいのよ。だからここに住むから』
「……はい?」
『じゃあ私そろそろ天国行くわね。天使君、息子のこと頼んだわよ。しっかり不良にさせてやってね』
「わかりました」
『じゃあね〜』


嵐が、去った。


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