短編 | ナノ


テンシ……てんし……天使
あ、そういえばさっき朝の占いで天使が降るでしょうとか言ってなかったっけ。占い当たったじゃん。空から降ってきたじゃん。でも羽とかないよ。天使の輪もないよ。
待てよこれは朝の占いからの刺客か。そこまでして天秤座の俺の占いを当てたかったのか。
だいたい黒いスーツ着て純日本人な感じに真っ黒な髪して「天使」とか主張しても説得力ゼロだし。

「そっかー天使だからねー。俺、天使の羽って一度でいいから見てみたかったんだよねー」

言ってて恥ずかしいくらいの棒読みでそう告げると男は顔色一つ変えずに頷いた。なんだこいつ電波君か。
それにしてもこの男、無表情だ。顔立ちは整っていて綺麗なくらいなのにひどく無表情。口数も少ない。これに加えて、口を開けば電波君だなんて実に友達少なそうなタイプ。

「わかった」

男がそう呟くと、どこからともなく風が吹いた。窓は閉めていたはずなのだけれど、とそちらに視線を向けようとしたが、どういうわけか首を動かせなかった。
男から、目が離せない。綺麗な黒髪。透き通った白い肌。風は、男から吹いてくるのか、男に向かって吹いていくのか。
ふぁさ、とか、ばさっ、とか。そんな音が男の背中から聞こえた。それから、白。とにかく白。真っ白な、大きな翼が、男の背にあった。
「き、」
綺麗、と口にしかけたところで、男が自身の羽に手を伸ばした。ぷち、と小さな音がしたかと思うと、その白くて細い指にはその指とはまた違った白があった。
天使の羽。もう翼からは離れてしまったのに、鳥のそれとは違う神々しさを放っていた。
「…………」
男は無言で、それを俺に差し出した。
「……くれる、とか?」
「…………」
「いや、もらえないって!」
「…………わかった」
男は少しだけ悲しそうに眉をひそめて、それを捨てようとする。
「わ、だからって捨てるなよ! もらうから!」
「………………」
「……ありがとう、な」
そう言うと男は嬉しそうに、にこりと笑った。そういう顔も出来るのか。やはり笑っても綺麗な顔だ。

「あ」

男が何かを思い出したように短く声をあげる。

そして小さく、小さく口の中で何かを呟きはじめた。独り言かと思ったが、違うようだ。
すると彼の傍らに小さな光が現れる。それがだんだんと大きくなり、人の形になり、よりいっそう輝いたかと思うと、消えた。
後に現れたのは見覚えのある女性だった。


『ちょっと天使君、うちの息子ずる休みさせちゃったわねコラ』





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