短編 | ナノ



まず何から説明しようか。ええと、だいたいあれから20分後。俺はまだ自宅にいた。
ああもう遅刻だな。いっそ休むか。今日は体調不良ということでいいや。
で、そんな体調不良な俺のベッドは1人の人間に占領されている。俺1人暮らしなのにおかしいよね。
白いシーツの上に横たわるのは真っ黒なスーツを身にまとった男。年は俺とそう変わらないだろう。ただ、黒いスーツの上下と、やはり真っ黒なだけのネクタイを締めた姿からは学生のオーラを感じない。単純に「スーツを着ているからもう学校はやめて働いているのだろう」と想像できるからではない。俺達学生からは感じられない、大人びた雰囲気をまとっていたからだ。
すやすやと眠るその男のことを、俺は何一つ知らない。ただ気絶してしまった男に俺のベッドを提供してやっているだけだ。
いやまてよ救急車を呼ぶべきだったのかもしれない。

実はこの男、空から降ってきたのだ。

一軒家の我が家。周囲も見渡す限りそんな感じ。高いところといえば屋根の上かなあ、といった具合に高層ビルやマンションとは無縁のご近所さん。
だけど、この男、どこからともなく降ってきたのだ。
そう、俺はバッチリ見てしまった。この男が降ってくるのを。隣の家の屋根からではない。向かいの家の屋根からでも、我が家からでもない。
何もない、空からだ。
……こんなこと話したら俺の頭を疑われること間違い無しだから、救急車なんて呼ばなくて良かっ……たのだろうか? いや、そもそもなぜこの男は生きてるんだ? 怪我とかもしてないし。
アスファルトにたたき付けられてかすり傷一つ負わないなんておかしい。つまり落ちてきたように見えたのは俺の錯覚で、実際には貧血か何かで倒れたのではないだろうか。きっとそうだ。だからコイツは無傷だ。救急車を呼ばずに自宅で介抱してしまったがばっかりに死んでしまうなんてそんなこともないはずだ。

「…………おい、」
「何だよ今忙しいから後にしてくれよ」
「…………ん」

あれ、今、誰か喋った?
……あ、気絶してたはずの青年じゃないですかおはようございます。

「って起きてたなら早く言えよ!?」
「さっき起きた」
「あっそう。じゃなくて、どっか痛くない!? 怪我とかしてない!? 死んでない!?」
「平気」
「そう……良かったー」

心底安心した。俺、人殺しにならなくてすむ。
人殺しってのは「あの時救急車を呼んでくれていたら息子は……この人殺し!」的な意味でだ。もちろん。

「俺、死なないし」
「……はい?」

今この子変なこと言いませんでしたか?




「俺、天使だから、死なない」



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