短編 | ナノ
接吻
時間が経つのがとても遅く感じるのはやはり自分が監禁状態にあるからだろう。部屋にある壁掛け時計の奏でる、チクタクチクタクという音がいやに耳につく。
手錠が外れないことを再確認しては時計を見る。ほんの数分しか経っていない。部屋を見回す。手錠を確かめる。この繰り返しだ。
それを二十ほど繰り返したところで、少年が戻ってきた。
買い物にでも行ってきたのだろうか。小さなスーパーの袋には人参やら胡瓜やらが入っているのが見えた。
「ご飯、食べませんか」
「…………」
「そうですか」
少年はそれほど困ってなさそうな表情で「困ったなあ」と呟く。
「食べてもらえないんじゃ仕方ないか」
少年が袋を置く。そのまま出ていくのかと思えば、ギシリとベッドが軋んだ。
「……重い」
素直に感想を述べれば笑われた。
また抱かれるのだろうか。何だか抵抗するのも億劫で、のしかかられたままぼんやりと少年の表情を眺める。楽しそうに笑っている一方で、どこか辛そうな表情。
……何でお前がそんな表情するんだよ。
と、柔らかいものが唇に触れた。驚いて声を出そうと開いた口から、ぬるりとした舌が入り込む。
あっさりと見つかった柊の舌は、少年の舌にねちっこく触れられた。そのまま唾液を送り込まれ、飲み込まされる。飲み切れない唾液が口の端を伝う。拭いたくても少年は解放してくれず、ましてや拭ってくれるはずもなかった。
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