短編 | ナノ
2日目・拒絶
重い。
最初に浮かんだのはその言葉だった。何かがのしかかっているというホラーな展開ではなく、ただ身体中がひどく重い。指の一本も動かせないほど疲弊していた。動かせたところで両腕は不自由なままでベッドに繋がれていたから仕方がない。
尻にまだ何かが挟まっているような違和感がある。気付きたくないが無視することもできない。
昨夜のことを忘れてしまえていたらよかったのだが鮮明に残っていた。
「おはようございます。っていってももう、昼ですけど」
柊が目覚めてそれほど経たないうちに、少年が部屋に入ってきた。服装は昨日と同じ。どこかの女子高生のままだった。
「お腹空きません?」
彼は悪気のない顔で柊を覗き込むと、トレーに載った昼食を見せた。
あれから何も食べていないのだが、食欲はまったくといって良いほどなかった。
「大丈夫ですよ。今日は何も入れてませんから」
「今日は?」
そういえばコイツ昨日……効いてきたとか何とか言わなかったか?
柊の視線に気付いた少年は悪戯っぽく笑った。
「薬、昨日は効いてたみたいですね」
「なっ………」
絶句した。
と同時にどこかホッとした。
昨日の自分がおかしかったのはきっとその薬のせいで、つまり自分はまともな人間のままなのだ。男に抱かれて悦ぶような変態ではなかったのだ。
「まあもう薬なんて入れないので、安心して食べてください」
「安心できるか」
というか人を強姦――と認めるのはしゃくだが、だからといって和姦にされた日には目もあてられない――した人間に少年に食事を出されたところで普通口にしない。その上一度薬を盛られていたとなれば、絶対に食べたくない。
差し出されたスプーンを無視し、頑なに口を閉じる柊に少年は困ったように微笑んだ。
「ちゃんと食べないと」
「なら」
ここから解放してくれればいい。
少年はやはり困ったように微笑むと、食事の載ったトレーを手に部屋を出て行った。
柊が餓死するのと少年が柊を解放するのと、どちらが早いだろう。そんなことを考えながら柊は目を閉じた。
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