短編 | ナノ 2/11(日)



あれから俺は何故かこの部屋に住まわせてもらっている。見返りも求めずに泊めてくれるヒラオカさんは少し変だが良い人だ。
そんなことを口にすると見返りは俺にバレンタインの贈り物を食べてもらうことだともっともらしく言った。余程モテるのだろうか。
そういえば何だかエリートっぽいし外見も男の俺が見てもイヤミじゃなくかっこいい。

それでも何だか変な人だ。



「おい朔哉朝飯」


ヒラオカさんは振り返りもせずに命令した。


「……自分で作れば?」
「『Eコレンジャー』と『仮面雷ダー』見るから時間ない」

……少しどころかだいぶ変だ。


ちなみにEコレンジャーというのはよくある戦隊もので、5人の駄目な大人たちが勝手に敵を妄想して戦う話だ。最近妙な敵が現れてとにかく登場人物が多くなっている。
仮面雷ダーというのは仮面をつけた青年が雷を操り敵を倒していく話。青年は拷問が好きだから敵はかなり痛い目に遭う。

とにかく子どもには見せたくない特撮だがヒラオカさんはゲラゲラと笑いながら見ている。
……まあ大人だしな。俺も理性を抜きにして純粋に笑いだけをみていれば面白い番組だと思う。



仕方なくパンをトースターに放り込む。

…彼女出来たらどうするんだろう、というくらいヒラオカさんは何もしない。朝はおろか夕飯も昼飯も俺に作らせる。
彼女云々は抜きにしても、これまでどういう生活を送っていたのだろう。



「あ、卵は半熟で」



……しかも目玉焼きまで要求してきやがる。

まあ居候の身でもあるし、おとなしく言うこと聞いてやろう。俺は出しっぱなしのフライパンを手にとりふと思った。


別れた彼女が作ってたんじゃないか?

料理も洗濯も皆別れた彼女がやっていたから、ヒラオカさんはやる必要がなかったから、今まで暮らしてこれたんじゃないだろうか。



漸くわかった。俺が必要な理由。

結局ヒラオカさん家政婦のような――もしくは彼女の代わりのような存在が一時的に必要だっただけなのだ。
バレンタインまで、と言ったのはその時告白された人と付き合う気なのか前の彼女とよりを戻す気なのか、それとも彼なりに決めた期間なのかはわからない。

ただ、わかってしまったのは俺は何かの『代わり』のような存在にしかなれないということだ。そんなこと、わかっていたけれど。


「…………」
「お、サンキュ。美味そうだな」


けれどそれは彼の中の決意にすぎなくて、俺には関係ないことだ。俺はただバレンタインのその日までこのEコレンジャーより駄目な大人のそばに居ればいい。

そこから先は、今は考えなくてもいい。


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