短編 | ナノ 2/10(土)



何であんなことを言ってしまったのだろう。俺は重い気分でドアを開けた。

仕事の都合で朝帰りになってしまったから1日ぶりの我が家だ。青年はまだ居るだろうか。それとも俺の言葉を怪しんで出ていっただろうか。
一応出掛けに帰るのは土曜になると告げていたから玄関で待っていることはないだろう。


そんなことを考えながら視線を上げた先、青年が丸まって眠っていた。






「………おい、」


そういえば名前を聞いた筈だ。たしか…



「サクヤ」


ぴくりと青年の睫毛が震える。

滝川朔哉。倒れていた青年の名前はそんな代わり映えのない名前だった。
自称25歳のフリーター。何故あんなところに居たのかと尋ねれば眠かったと返って来る。
表情と口調にハリはなく、無口無表情の代表みたいな人間だ。


「………」



朔哉は無言で俺を睨むと、きょろきょろと首を動かし始めた。


「お前、こんな所で寝てると風邪引くぞ」
「……一番良かったから」
「寝心地がか?」



こくりと頷く朔哉の顔を見ながらふとくだらないことを思い出した。



「なあ、遊園地好き?」




何を言い出すのかと怪訝な目で見られた。

遊園地というか、例の有名なアミューズメントパークのチケットが2枚。何故か俺の手元にある。
月曜日に、別れた彼女と行く筈だったものだ。

何も出会ったばかりの、しかも男と行かなくてもいいのに。誰かに売るか別の女の子と行くか。

そこまで好きだったわけじゃない。感傷的な気分になったりもしていない。


ただ、朔哉という青年をもっと知りたいというのが本音だった。



「……嫌いじゃない」
「よし、じゃあ月曜に行くか」



俺は子どもにするみたいに朔哉の頭にポンと手を置くと、ベッドへ歩き出した。
休日はゴロゴロするのが決まりだからだ。


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