彼はそれを愛と言った | ナノ カミングアウト


あれから一週間、

毎日野村が授業中起きているということはないが、以前に比べて起きている時が多くなった。少なくとも休み時間には目を覚ますようになった。そして目を覚ましていれば話しかけてくる。


弁当は……最初は半分ずつにわけていたのだが、次第に面倒になり、少し前から2つ作ってくるようになった。
さすがに2つになると量も違うし、野村も「材料費くらい出す」と言ってきたのだが、断った。
無いところから搾り取るなんて非道なことができるはずもない。という理由で。


「はむらーごはん」
「おう」


餌付けしてるみたいな気分になる。事実、そんな感じだろうし。

俺が渡した弁当を喜んで受け取る野村。すごく包みを解きたそうにしているのに、俺が解くまで決して解かない。待てをしている犬にも似ているその様子に、口元が緩む。

可愛いな。自然と浮かぶ言葉を、打ち消せない自分がいた。







さて、曲がりなりにも「友人」という立ち位置を獲得した俺ではあるが、1つ重大な秘密を抱えたままなのである。
趣味。つまりオタクであるというかと。

……いや、今まで隠していたつもりはないからほとんどの人間がそう認識しているだろう。しかし野村は周囲の視線に敏感な人間ではない。だから、俺のこともそう認識していない可能性がある。
学校でのほとんどの時間を睡眠にあてていたのだから知らない可能性大と言ってもよさそうだ。
野村が俺のことを知って離れていくならそれだけのこと。早めにカミングアウトしてしまう方がいいに決まってる。
そう考えて、1週間。

今日こそは……今日こそはカミングアウトしてみせる。


「ふぁむるぁ」

野村が口いっぱいにご飯を詰め込みながら言う。おそらくは「羽村」と俺を呼んだのだろう。

「まず飲み込め」
「ん」


もぐもぐごっくん。


「プ○キュアって来年もやるのか?」
「あー、やるけどメンバー変わる」
「ふーん」


そしてまた口いっぱいにご飯を詰め込む野村。それを眺めて満足感にひたる俺。

……ん?


「……なんでそれ俺に聞くの?」
「だってケータイストラップがプ○キュアだし」

はっ……ホントだ!
あまりに自然すぎて気付かなかったぜ。

「あとりりかるな○はとか好きみたいだし」
「なぜそれを!?」
「下敷き」
「あ、ホントだ」


ホントに隠す気ないな、俺!

あと鞄とかロッカーにも色々ありました。すごく今更でした。


「……わかってたと思うけど俺オタクなんだ。3次元の女の子が大好きなんだ」
「あ、そうなんだ。明日のフリカケはのり○まがいい」
「わかった用意しとく」


いや、そうじゃなくて……


「お前俺のこと気持ち悪いとか思わないの?」
「思わないと言ったら嘘になるな」
「…………」


正直に言ってくれてありがたいはずなのだが……なんだろう涙が出そうだ。
やっぱり二次元にハァハァしてる野郎は気持ち悪いのだろうか。たしかに冷静な目で見ると気持ち悪い気がするけど。

「でも気持ち悪いだけで別に迷惑かけるわけじゃないし、お前悪い奴じゃないし。あと弁当美味いし」
「……ありがとう?」

ありがとうって言っていいのかよくわからない。

「だから別に隠さなくていーよ。隠せてないし。で、明日はのり○まな」
「あ、うん」


そしていつも通りに弁当を食べて、いつも通りに雑談した。
……あれ、なんかよくわからないけど喜んでいいのかな。ダメだよくわからない。








「あ、お前こそなんでプリ○ュアとか知ってんだよ」
「妹が好きだから」
「ふーん。テレビとか見るのか」
「いや、テレビないからたまにぬりえとか買ってやるくらい」
「……そうか」


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