彼はそれを愛と言った | ナノ



教室では早くも噂がたっていた。
転校生はどうして中江喜代史と仲が良いのか。それをああでもないこうでもないとろくでもない推理を並べたもの。それが噂だった。

当初は喜代史が高里を脅しているのではないかというものが濃厚だった。けれど高里の喜代史への懐き方を目にした生徒たちはすぐにその推理を打ち消す。
とにかくただの幼なじみでは納得してくれないらしい。


それは塚越正広も例外でなかったらしい。


「中江さん、誰ですかあいつ」


誰かなんて言われても幼なじみとしか言いようがない。
そもそもお前はこのクラスじゃないだろうと口にしかけて、やめた。どうせそんなことを言ったところで塚越はやって来るのだろうし。


「幼なじみ」


結局その一言だけ告げると、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。






   ***


昼休みになると高里がやってきた。
教室が一瞬静まる。彼らが騒ぎ出す前に喜代史は高里を連れて教室を出た。



「キヨとご飯食べるのも久しぶりだねぇ」

「昨日うちで食べたろ」

「ああ、じゃあ学校食べるのは、久しぶり」

「ん」



おばさんのご飯も相変わらず美味しかったよなんて当たり前の顔で笑っている。
当たり前。ひどく当たり前に訪れた、それまでは存在しなかった「日常」。

木陰に座り込んだ2人はのんびりと話しながらそれぞれの弁当を口に運んでいた。



「クラス、どうだ」

「うん。よくしてもらってる」

「そうか」

「でもキヨの1組とは遠いよね。階も違うし」

「ああ」

「来年は一緒だといいね」

「……ああ」



その穏やかさに、喜代史はふと幼いころのことを思い出した。あの頃も何もなければこうだった。何もなければ。


「ねえキヨ」

「ん?」

「今日は一緒に帰ろう?」


少し不安そうに自分を見上げる高里に、自然と微笑み返す。


「今日『から』、じゃなくてもいいのか?」





高里は驚いたがすぐに「今日『から』!」と笑った。





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