彼はそれを愛と言った | ナノ




放課後。教室には待ってもいない塚越がやってきた。


「中江さん、一緒に帰りませんか!」

「……約束あるから」


約束、というのはもちろん高里と帰ることだ。しかし塚越はどういうわけか違うことを想像したらしい。


「喧嘩っすか!?俺も連れてってください!!」


……やはり彼には喜代史が不良にしか見えていないらしい。



「そうじゃなくて――」



一緒に帰るヤツがいるのだと告げようと口を開いた瞬間、ガラッと引き戸が開いた。


……高里だ。


「キヨ、どうしたの? 真っ青だけど……」

「…………」


心配そうに自分を見上げる高里に指摘され、変な汗をかいていることに気付く。



どうしてだったっけ?

どうして、怖いんだろう。


怖い……?



「帰ろうか」

「……ああ」


高里は怒っていなかった。
(どうして怒っていると思ったのだろう。待たされたのは自分なのに)


けれど、高里の反応にどこか落胆している自分もいた。
(どうして怒らないのだろう。だって、だって……)



……どうしてだったっけ?







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