彼はそれを愛と言った | ナノ



実験は2人1組になって行う。出席番号で組んだ相手はやはりというか、野村だった。

「羽村ー」
「何」
「これどういうこと?」

実験結果からレポートの考察を書こうにも普段から授業中は寝て過ごしていたためノートは真っ白な野村。教科書を見ようにもどこを見ればいいのかわからないらしい。

仕方ない……

俺はやはり考察を書くのに参考にしていた自分のノートを野村に見せ、簡単に説明していく。それからどういう風に書いたらいいのか説明する。
野村は真剣な顔で聞いていた。理解力がないわけではないらしく、やがて「助かった」と笑って、考察を書き始めた。


こいつは本当に長男なのだろうか?
まるで弟を持ったような気分で野村を眺める。


「羽村ー書けた」
「よし」


嬉しそうに報告してくる野村の頭を撫でる。短い黒髪がサラサラと指に触れるのが心地好い。
思わず口元に笑みを浮かべた。

瞬間、己の行動の異常さに気付いて手を離す。


「羽村?」

野村は不思議そうに首を傾げる。




……何をしてるんだ、俺は。



コイツは弟でもなければ、友達とも言えない、まだ話し始めたばかりの相手だ。すぐに飽きて俺を置いてクラスに溶け込んでしまうか、クラスに溶け込むことで俺を置いていくに決まっている。
だから、心を許してはいけない。

許した途端裏切られてしまうに違いないから。



「羽村」

「何…だよ」

「羽村って優しいな。友達じゃなくて兄貴ができたみたいだ」






無邪気に笑うから、信じてみたくなった。

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