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この気持ちを何と名付けるか(シオライ、学園物) [ 94/196 ]


俺達は付き合っているらしい。


(……っていつの間にそういうことになってんだ?)



記憶にはないが、いつの間にかそういうことになっていた。いつから、どうして、そうなったかわからない。
だからといってそうなる前と何かが変わったかと言えばそういうこともない。いや、決して変わって欲しいわけじゃないが。


さて、今日はバレンタインデー。女の子の特別な日。

そしてシオンが抱え切れないほどのチョコレートを貰う日。








   この気持ちを何と名付けるか





――パタン


キファから押し付けられた小説を閉じる。それなりに面白そうではあったが今は眠い。

窓から外の光が差し込む席は、図書室でいつも座る席だった。あたたかくて、余計に眠くなる。
こうしてゆっくりと目を閉じれば、次に目を開いた時にはシオンが苦笑している。それが日常。


だから、今日も眠ろうと思った。その声が聞こえてくるまでは……





「シオン君」




薄く開いた窓から、風と共に流れ込んでくる、声。


そっと振り返ってみれば、中庭でシオンが告白されている場面が目に入る。
可愛い女の子が顔を赤らめて、シオンにチョコレートを渡すシーン。そんなもな、見慣れたはずだ。


俺は知っている。アイツが山ほどチョコレートを貰うのを。あのチョコレートがその中のたった一つにすぎないことを。
二人になった時、「手作りは恐いな」と冗談めかして言うことを。

それでも全部残さず食べることを。






(馬鹿らしい……)



何故、こんなにも気にかかるんだ。見慣れた景色が。





   ***






「記録更新」
「はいはいおモテになりますねシオンさんは」
「ライナこそ、フェリスから貰ってたろ。キファからは本だったかな。全校生徒から羨ましがられてるぞ」
「本はともかく、チョコレートだんごを羨ましいと思うのかお前は」



しかも作ったのは俺、というミラクルな矛盾まで存在する。誰かアイツにバレンタインの意味を教えてやってくれ。





「ライナ」
「ん」
「キスしたい」
「だんごに?」



わざとそう言うとシオンの真剣な表情が近づいて来た。ああ、みんなこの無駄にカッコイイ顔に騙されるんだよな。

本当のこいつは最低で、真っ黒で、Sで、Mで、でも優しいのに。


唇と唇がぶつかりそうになったから目を閉じた。この行為がいつから繰り返されていたのか、俺は覚えていない。わりと出会ってからすぐだったような気もする。
ではその頃から「付き合っている」という状態だったのかというとそれも少し違う気がする。

からめとられた舌がじんわりと痺れてきた頃、ふとシオンの大量のチョコレートのことを考えた。今年のそれもシオンの唾液と混じり合い、やがてシオンの中へと吸収されていくのだろう。



それは毎年のことで、おそらくは来年も繰り返されること。
その来年もきっと俺はシオンの隣でそれを見ているに違いない。







(それが苦しいのは罪悪感か、それとも……)




‐END‐


08.02.21


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