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昼寝王国の王様(シオライ) [ 93/196 ]




そこは幸せな国。

穏やかな日々がゆっくりと流れていきます。人々はのんびりと昼寝したり、無理しない程度に働いたり、笑い合って生きていました。
この国に戦争なんてものは存在しません。他国もまた戦争をしなくなりました。

悲しい犯罪も、涙も、何もない。幸福でできた国。その中心には一人の王様がいました。






   昼寝王国の王様




「……もう、眠れない…」


王様はふかふかの特製ベッドで眠りながらそんな寝言を言っていました。
この国は平和すぎて王様はもはやただの飾りでした。けれど王様はその方が良いと思っていました。

だから王様は今日も暇を持て余し……というよりは好きで眠りについていました。王様は眠るのが大好きでしたから。
けれど王様は何かに違和感を感じていました。こんなに平和なのに。こんなに幸せなのに。ここが自分の生きている世界なのか疑ってしまうのです。


「俺って破壊願望でもあるのか?」



しばらくすると友人のシオンがやってきました。


「ライナー!」


シオンはパタパタと駆けてきました。


「何だよ、俺眠いんだけど」

「一緒に…」


一緒に?
どうしてか、その後にすごく嫌な言葉が続く気がしました。

なのに、そんなことはまったくありませんでした。


「一緒に昼寝しよう!」

「え?」


王様はその言葉に違和感を感じました。さっきまでより強く、強く。

『違う』



これは……シオンではない。

ここは……自分の居る世界ではない。




「違う」

「どうかしたか?」

「お前は『誰』だ」

「どっからどう見てもシオンだろ」


シオンは不思議そうに言います。けれど王様は首を振りました。



「あいつが……あいつらがいない。この国は…お前は違う……」



誰だって幸せな方がいいに決まっています。だけど……王様は違いました。
王様は……ライナは『あの世界で』幸せになりたいと願っていました。

この世界は理想で出来た偽物……そう、ライナは気付いたのです。



「シオンもフェリスも……そりゃ、仕事馬鹿だし、すぐ殺そうとしてくるし、馬鹿でお人よしだけど、やっぱ違うんだよな。俺だけが幸せになっていいもんじゃないんだ」


みんなで笑って、
気に食わないヤツも含めて皆で笑って、



「あいつらは苦しんでるのに。俺はあいつらを助けるって決めたのに。こんなところでぐうたらしてる場合じゃ、ない」




シオンはそれまでの笑顔を曇らせ、王室のドアを指さしました。


「あっちだ」

「え?」

「出口」



この世界からの、出口。


シオンはライナに背を向けるとドアへと歩き出しました。

まさか、とライナは目を見開きます。



「おまえ…シオン?」

「だから、どこからどう見てもそうだろ?」

「違う……そうじゃなくて…おまえは………」

「じゃあ、な」



シオンがドアノブを捻ると、向こう側には違った世界が広がっていました。これまでの幸福とは違う、苦しみがはびこる世界。
それにシオンは少しだけ。
少しだけ悲しそうな顔をしてから、表情を消しました。



「シオンっ…!」



彼の服を掴んで引き止めようとしたライナでしたが、掴んだはずの服はするりと消えてしまいました。

そして、いつの間にかそこは宿屋になっていました。


戻って来たんだ。そうライナは呟きました。







「戻らない方が良かった、なんて思わないからな」






だから、首を洗って待ってろ、シオン。
あんな夢に頼らなくても、作ってやろうじゃないか幸せな世界。

ライナは最後に見たシオンの悲しそうな顔を思い出しながら、少しだけ泣きそうな顔をしました。




‐END‐


08.03.22



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