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悲しいくらい、(銀→マダハツ) [ 40/196 ]
包みを受け取るのを躊躇わなかったといえば嘘になる。躊躇いの次に「受け取ってその後に捨ててしまえば良い」と悪魔が囁かなかったかといえば大嘘。
上手くいかなければいいのに。このまま離婚してしまえばいいのに。
そんなこと何百回も考えた。
あの人が俺を好きになればいいのに。
そんなこと、何千回も考えた。
「……チョコレート?」
声が震えなかったのは奇跡に近い。
表向きだけでも冷静でいられたのは何故だろう。
「愛されてんなァ、長谷川さん」
きっと断ったらこの女(ひと)は直接渡しに行くだろう。若しくは宅配便かもしれない。
いや、そんなことできないから俺に預けようとしてるのかもしれない。
でも、わかるんだ。
俺はきっとこのチョコレートを捨てることなんてできない。この依頼を拒むこともできない。
愛のキューピッドになるしかないんだ、と。
だけど、思う。
このチョコレートが永遠にあの人のところへ届くことがなければいいのに、と。
悲しいくらい、
「銀さん、頼みがあるんだ」
その時は思いの外早く来た。
先月の今頃のことだった。あの女(ひと)から彼宛のチョコレートを預かり、届けたのは。
彼は顔を赤らめて文句を言っていたけれどそれが照れ隠しだとわからない俺ではない。
どれだけ彼を見つめてきただろう。どれだけ報われない想いに苦しんだだろう。
なのに俺は彼から離れることができない。
彼から受け取った包みは少々不格好なものだった。ああ、自分で包んだんだろうなと見て取れる。
「ちゃんと3倍返し?」
「おお、頑張ったからな」
自分の生活だけでも大変なくせに。
「………ねえ、長谷川さん」
「何だ銀さん」
苦しい。
この夫婦の橋渡しを、どうして俺がしなくちゃいけないんだろう。
俺だって、
俺だって、彼が好きなのに。
「アンタらって、最低だよな」
呟いた声は小さすぎて彼には届かなかった。
俺は、結局その包みをあの女(ひと)のところへ届けるのだろう。喜ぶその表情にまた苦しむんだ。
それならば協力なんてしてやらなければいい。
でも、それもできない。
悲しいくらい俺は彼が好きなんだ。
‐END‐
文章力が足りないせいであまり悲恋に感じないという罠
08.03.18
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