版権 | ナノ
4.神のおわします場所 [ 176/196 ]




※ミツルに記憶がない場合





これは一種の賭けだった。



「ねえ、神様ってどこにいると思う?」

「そんなの決まってるだろ。居る筈ない」



だから、そ返事が何より悲しくて、亘は泣きそうに顔を歪ませた。

それでも、いいと思った。もう一度やり直せる。何度だってだ。
だって二人とも生きているんだから。



「じゃあね、ミツル。また明日」

「………」



笑って、手を振って。相手が戸惑う顔を見せても気にしない。
亘は美鶴の優しさを知っていた。だから、邪険にされた所で気にならない。


美鶴は妹と一緒にこの学校に転校して来た。亘はそれを見たとき本当に驚いて、何が起こったのか理解出来なかった。それでも目の前にいるのは美鶴で、良かった、生きていたんだと安堵した。嬉しかった。彼は、生きていた。
そして亘が美鶴に抱きつきかけた瞬間、彼の口から発された言葉は……


――誰だ、お前は


そこまで考えて首を振る。いいんだ。アヤちゃんを助けることが彼の望み。その望みと自分との記憶なんて秤にかけるまでもない。
美鶴はアヤと一緒に、幸せな日々を過ごしてきたのだろうから。


ねえ、美鶴。神様は何処にいるか知ってる?


幻界っていうところにある、運命の塔のに女神様は居る。幻界に来た旅人の願いを叶えてくれる女神様。


神様は、運命の塔にいるんだよ。




「……よし、」




明日は「女神様はどこにいると思う?」にしておこう。そう決めると亘は微笑んだ。

















美鶴が転校して来て一番に声をかけられたのが、三谷亘だった。
ただその理由がわからない。亘の口ぶりでは美鶴を誰かと間違えているようだったのだ。それでも彼は自分を美鶴と呼んだし、更には妹の名前まで知っていた。
何なんだろう。新手のストーカーだろうか。

クラスは別だと言うのにしつこく顔を出すし、馴れ馴れしく下の名前で呼ぶし。
何なんだろう、あの男は。



――ねえ、神様ってどこにいると思う?



そんな質問をされるなど思ってもみなかった。亘はクラスメイトたちより少しだけれど大人びている所があったから、そんな子どもっぽいことを聞いてくるだなんてと不思議に思った。
だが、亘の目は真剣で、それが子どもじみた質問などではない、もっと深い意味を帯びたものなのだと美鶴にも理解できた。


だが、神なんてどこにもいない。

それが、答え。



それなら女神は?



ふいに、脳裏に過ぎる。女神?
そんなの神と同じに決まってる。何処にもいない。違う。いる。いない。


――女神は運命の塔にいる


………何なんだ。勝手におかしな言葉が脳裏に浮かぶ。何故だ。こんなRPGにでもありそうな言葉、誰が考えた。そういえばあの時も思ったな。あの時?






なんとなく、亘は明日も同じことを聞いて来るような気がした。その時『神様』が『女神様』になっていたら、戯れに言ってみようか。


言ったら、誰のものともつかないこの奇妙な記憶があふれ出すような、そんな気がした。











「女神様はどこにいると思う?」

「運命の塔に」





―END―


[*prev] [next#]
top
TOPへ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -