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5.「願い事のためなら・・・」 [ 177/196 ]
願い事のためなら他の誰かなんてどうでもいい。他人の幸せなんて望まない。欲しいのはただ、過ちを許してくれる存在。
たとえ彼女が自分を憎むようなことが起きたとしても、自分は変えたかった。
何を?
過去を?
未来を?
現在というこの時間を…
「お兄ちゃん」
にこりと笑った彼女、アヤが自分に笑いかけてくる。屈託のない笑顔に自分の心が癒されていくのがわかる。
頑なだった自分の心が解け、ゆっくりと別の形を描いていく。それもまた自分自身なのだろう。
だが、その心を解いた存在は妹だけではないとミツルは知っていた。
「アヤか」
今も昔もミツルの世界の中心には彼女が居た。だが、今は少し違う。
理解できもしないくせに勝手に上がり込んで、引っ掻き回して、気がついた時には背を向けて走り出してしまう。
いつまでも彼を繋ぎ止めておきたい。新しい願い事は何時しかミツルの中心に居座った。
ワタルといつまでも一緒にいたい。
ワタルが自分以外の世界へ目を向けるのが嫌だ。
そんな子どもじみた独占欲。
「なあ、アヤ。願い事は人を変えるんだ」
願い事で人は変える。
「強くもし、弱くもする」
強くもなり、弱くもなる。
「だけど、忘れちゃだめだ」
忘れてはならない、ワタルが教えてくれたこと。
「願い事を叶えるためなら人はどんなことだってできる。だけど、その『こと』が人として間違っていたら、願い事は絶対に叶わない。誰かに頼り切ることでも叶わない」
自分は誤り、ワタルは正しかった。
本当は正しいことなんてないのだろうけれど、ミツルはそう思っていた。
「願い事は、人を強くするためにあるんだ」
だから強くなって、自分の力で願い事を叶える。
「……じゃあ、ワタルお兄ちゃんのおよめさんになるって、おもったらつよくなれる?からかわれても言いかえせるかな?」
「……………およめさん?」
「うん!」
……ああ、好敵手は身近にいたのか。
ミツルはどうやってワタルを諦めさせようかと首を捻るのだった。
―END―
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