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2.廊下で衝突 [ 174/196 ]
「芦川が廊下走るなんて珍しいよな」
のほほんとした口調で亘が美鶴に手を伸ばす。
美鶴は廊下に座り込んでいた。
……恥ずかしい。
顔を上げることにも抵抗がある。余りに馬鹿らし過ぎる。
からかわれたのだと気づいたのは、亘が笑っているのを見たときだ。けれど急に止まることなどできない。
結局亘にぶつかるギリギリ前に自分から転んだ。
無様だと、美鶴は思った。
クラスメイトに言われたのは数分前。亘に対してだけは明らかに表情の違う美鶴が気にくわなかったのだろうか。そのクラスメイトはいつも、不機嫌そうな顔で美鶴と亘を見ていた。
「ね、知ってる? 三谷君さっきハードルで転んで、怪我したって。病院行ってるって」
そもそもそんなことを嬉しそうに言う辺り何かあると思うのが普通だったろうに。それでも亘絡みとなると判断が鈍る美鶴は、それを信じてしまった。
いや、考えるよりも先に足が動いていた。
走って、走って、走って……
廊下の向こうに亘が見えた時、全て理解した。ああ、担がれたのか。
けれどその時沸いて出た感情は怒りでも悔恨でもなく、安堵だったのだ。
「……いいだろ、別に」
伸びて来た手を乱暴に振り払い、自分で立ち上がる。
「んー、まあいいけどさ。でも珍しいし」
「五月蝿いなっ!」
「五月蝿いって何だよ。俺は変なこと言ってないだろ」
「…………」
「何なのさ、変な芦川」
その場を足早に去っていく中で、美鶴の中に、奇妙な感情が眠っていたことに気づく。
とりあえず認めたくはないのだが。
(俺がどうしてあんな馬鹿の心配をしなきゃいけないんだ……)
―END―
その感情は、恋。
逆に見えるけどミツワタです
2006.07.28
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