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ファミレスにて(歪アリ・武康) [ 149/196 ]
「あ、武村さん」
亜莉子が嬉しそうに駆けてくる。武村は微笑みながら彼女を見、そしてその隣にいる仏頂面の男に視線を送った。
和田康平が、僅かに舌打ちしながら亜莉子の後を追って来る。
「どうしたんですか、こんな所で」
口を開いたのは亜莉子だった。和田は苛立ちを隠そうともせず、亜莉子と武村の間に立つ。
そういうわかりやすい所が、からかいがいがあるのだと武村は思う。
「うん、ちょっとご飯でも食べようかと思ってね。偶然だね」
「偶然ですね」
「………」
矢張り和田だけは納得のいかない顔をしている。
3人は、近くにあったファミレスへ入る。座る配置は奇妙なもので、和田と武村が隣に並んで座り、その向かいに亜莉子が座っている。
それは亜莉子がさせたものだが、その理由がよくわからない。亜莉子はただ微笑んでいただけだ。
食事が終わり、食後のコーヒーが2つと、亜莉子の頼んだケーキが運ばれてくる。隣に座りながらも始終ムッとして口を開かない和田を見れば、コーヒーに砂糖を随分と入れていた。思わず口元を弛ませれば凄い目で睨まれた。
「叔父さん」
亜莉子がフォークに一口分のケーキを乗せ、和田に言った。しかし一瞬武村を見て笑った。
和田は露骨に顔をしかめ、首を振る。しかし亜莉子は許さずそれを口元まで近付けた。
「………」
「……せっかく…美味しいのに」
石化した和田に上目使いの攻撃。姪煩悩の彼にはただ降伏するより他にないらしい。
それは傍目には随分と微笑ましい光景だった。うっすらと開いた口に差し込まれるフォークの先。和田の口内へ消え、すぐに出てくる。
「美味しかったですか?」
にこにこと無邪気な顔をして和田の顔を覗き込む亜莉子。和田はいたたまれない顔をしてうつ向いている。おそらく、武村の前で己の失態を見せたのが気に食わないのだろう。
亜莉子が「トイレに行ってきます」と席を立ち、テーブルには横に並んだ男2人が残された。
和田は無言でうつ向いている。
「あ、クリームついてる」
「……っ!!」
頬についたクリームを、ペロリと舐めとってやれば信じられないとばかりに目を見開かれた。
ああ、こんなに面白い玩具、絶対に手に入れたくなるじゃないか。
亜莉子の母親は亜莉子に近付くための口実。亜莉子は……
和田に近付くための口実だなんて、この男は一生気付きそうにない。
自分に向けられる感情には鈍感そうだから。
「亜莉子ちゃん、遅いなあ」
「………」
不機嫌そうに亜莉子の入ったトイレを眺める和田が、なんともいえず愛しかった。
‐end‐
日記に載せていた噺(テスト前になにしてる)
猫がじゃれてきて死に掛けました…後生だからパソコンに爪立てないで(滝汗)
てか勉強しなきゃいかんのよ頼むよにゃんこ先生!!(日記に書け、そういうことは)
なのでちゃんとしたあとがきは書くとしたら後日
※おまけ※
トイレにて(猫アリ)
「叔父さんと武村さんがもう少し仲良くなればいいのよ」
少女がたった一人、トイレで呟いた。
ファミレスの女子トイレ。そこには少女――亜莉子以外の人間はいなかった。
そう、『人間』は…
「ねぇ、チェシャ猫はどう思う?」
「アリスが望むなら、それでいいと思うよ」
「……そういうのって何か投げ遣りだわ」
あからさまに溜め息を吐きながら、表情の読めないチェシャ猫を睨む。チェシャ猫は不気味な笑顔を浮かべたままで、矢張り何を考えているのかわからない。
「だから、このまま帰っちゃおうかな」
「オジサンたちは?」
「置いて行っちゃうのよ」
悪戯っぽく笑った亜莉子は、そっとチェシャ猫を抱いてトイレを出た。
「いいの?」
「だって、仲良くなって欲しいじゃない」
亜莉子はにっこりと笑う。
今のようにギクシャクとした空気では、どうも息が詰まる。
和田が一方的に武村を嫌っているようなのだが…
「時には荒療治も必要だわ」
それで、ちょっとでいいから仲良くなって欲しいの。
不思議だ。こんな穏やかな気持ちで何かを願う日が来るなんて。
亜莉子は目を閉じて思い出す。歪んでしまった自分の世界。不思議の国を。
――僕らのアリス
アリスが望めばそれは現実に。
そうだよね、チェシャ猫?
‐end‐
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