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偽りの笑顔と過去の償い(歪アリ・武康)* [ 148/196 ]



きっかけは、何だったのだろう。
白い病室の、白いシーツ。そこに下肢を伝って流れ落ちた残滓。

武村は相変わらず読めない微笑を浮かべたまま和田の衣服を整えていた。


ひどく気分が悪く、吐き気が込み上げて来たのは残滓による異物感のせいだろうか。それとも武村の微笑のせいだろうか。
苦々しく「しね」と吐き出した。それでも武村は微笑っていた。


死にたい気分だった。だけど、死ぬことはできない。
罠にかけられた動物とはこんな気持ちでいるのだろうかと、なんとなく思った。





   ※ ※ ※





亜莉子が退院してから一週間が過ぎた。
その日、和田は一週間ぶりにその病室を訪れていた。



「亜莉子ちゃんは?」



学校です、と答えながらそっと相手の様子を窺う。相変わらずの微笑は矢張りその感情を上手に覆い隠していた。
それでも彼の周囲の空気は明らかな落胆の色を含んでいた。



「武村、さん」

「ん?」

「亜莉子に近づかないでいただきたい」



言った後に、少しは表情が読めるだろうかと思っていたのだがそうでもなかった。微笑は変わらず声音も変わらない。ただ、二人の間に流れる空気だけが緊張したものへと変わったのは確かだ。
いきなり落ちた声のトーン。「へえ、そう」と渇いた音が響いた。



「亜莉子ちゃんが望んだんだ?」

「……いえ、俺の独断です。亜莉子は、あなたと会うことで母親とのことを思い出してしまいます。それも、最期の強烈な思い出だけを」

「…………」




母親の首が眠る墓で涙を流した少女。それでも微笑んで、訳のわからないことを言っていたっけ。
優しい娘だ。実の母親にころされかけて、それでも母が好きだという。

下世話な恋愛感情などではない。ただ、彼女への同情と罪悪感と父性のようなものが和田の中にはあった。



「……いいよ」



武村の返事はあっさりしたもので、拍子抜けしてしまう。
でも、と続けられた言葉にくらりとなる。



「三人で会うならいいね?」




そういう問題じゃない。あんたはわからないのか?亜莉子があんたを見るだけでそれは引き金になるんだ。あんたはあの娘の母親の婚約者だ。しかも、母親に殺されかけた。
思い出してしまうに決まっているじゃないか。三人だって、何人でだって。

そう怒鳴りかけていた和田をベッドへ突き飛ばし、その上に覆いかぶさるようにして武村が乗る。



「――だって、君は僕が亜莉子ちゃんにこういうことをしないかが一番心配な筈だから」












「――っ!!」



強烈な痛みが下肢を襲った。頭をガツンと鈍器で殴られたかのような衝撃だった。
それは一瞬では収まらず、ズキズキズキズキと体中が悲鳴を上げ続けた。

そこからはぬるりとしたものが流れた。切れたのだろうか。当然だ。唐突に突き入れられたのだから。
武村は思いやりなど欠片も見せずに和田を組み敷いた。目頭が熱くなるがそれでも必死に眼を開けて武村を睨み続ける。

無理矢理開かれたそこに武村のものが突き刺さっている。ただただ痛みに気が遠くなった。



「代わりだから」



もっと優しくすべきなんだけどね、と囁かれた。声だけはひどく甘い。





「不思議だね。君には酷くしたくなる」





誰の代わりかなんて訊かなくてもわかる。


それでも中のきつさには参ったようで和田のものへと手を伸ばして来た。身を捩って逃げようにも腰に突き刺さった楔がそれをよしとしない。
身じろいだせいで圧迫感を増したそれは和田の中でその熱を主張していた。



「力、抜いて」



優しく前に回された手。緩く扱かれて徐々に自身が立ち上がる。
痛みに気が遠くなりそうな一方で快感に貪欲な体には嫌になる。

力が抜け始めたそこを突き上げられる。矢張り痛いだけだった。それでも彼の手だけはひどく優しく和田のものを撫でていた。
まるで欲望とその手は別の物のように感じた。




やがて、中に吐き出されると同時に自分も果て、呆然となる。

濡れた蕾から伝い落ちる赤と白。


非現実的だと思った。



乱れた衣服を整え、重い体を引きずり、逃げるようにそこを後にした。追ってくるかと思った武村は呼び止めもしなかった。










それが、始まりだった。







   ※ ※ ※







「ひどいなあ、死ねなんて」


今も自分の目の前で偽りの笑顔を浮かべる男。


「………」


こんな生き恥を晒す位なら死ねばいいのに、と思う。そのくせ死ねもせずにこうしてこの男の元へ出向くのは馬鹿だ。
しかし、和田はあの日の翌日、再び武村の病室へ訪れた。


その理由は、





「亜莉子に手を出さないでください」

「うん、君に飽きるまではね」





姪のためだった。それ以外に何もない。

あの日いつの間にか撮られていた写真を取り返したくないかといえばそれは嘘になる。だが、それよりも何よりも大事なのは姪だった。
写真を見られて困る存在だって姪だった。




「妬けるね」

「何がです」



ただの償いだ。あの日の罪を償うために彼女を守ろうと誓った男の。







―END―





書きました。ついに書きました武康裏(?)
否、微裏ですかね?私の裏は毎度淡白且つ短いような…

く、もっと鬼畜プレイをすれば…(殴)

ちなみに下書きと180度変わっています。下書きの意味なし



あれ、やっぱり武→康っぽいような…
となると武村さんがアレなのは全部振りで叔父さんを振り向かせるための小芝居――即ち陰謀ですか?(私信)




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