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海の向こうから吹く風(蟲師・化ギン) [ 165/196 ]


人は、感情を誰かに伝えたくて言葉を覚えたのだろう
人は、想いを誰かに伝えたくて文字を作ったのだろう


だから、人は想いを言葉に込め、それを文字として残し、大事な誰かへ送るのだ



それが手紙というものなのだと彼は思う




   海の向こうから吹く風





『元気か?   化野』




ギンコの元に届いた手紙は、蟲に喰われでもしたのかと思えた。しかしそうではなく、本当にその一言しか手紙には書かれていなかったのだ。
ギンコは呆れながらも紙を手にする。


『ああ、生憎元気だ』



本当ならその一言で終わらせるつもりだった。それが何ヶ月ぶりかの交流らしいものであろうと、知ったことではない。
だが、風が吹き、紙を揺らした。それを見、ふと気が変わる。

目の前にはただ広く、青いだけの海がある。潮風を感じながらギンコは静かに眼を閉じた。涼しさを感じるよりは肌寒く、それすら心地良く思えた。



『気持ちの良い風が吹いて居る』


その風はギンコの髪を撫で、頬を撫で、優しく包み込む。



『あんたに似ているかも知れないな』



独りでに、口元が綻ぶ。
段々と懐かしさが込み上げてくる。眼を閉じれば思い出せる。苦笑した化野の顔。それに矢張り苦笑を返す自分。







『なあ、先生の所にも風は吹くだろう?季節と方角を考えるに、その風は今俺の居る海から吹いてくるものだ。だからどうしたと言われても困るが。ただ少し、思っただけだ』






静かな海。波の音だけが響いている。
一人で見ればただ青いだけの海も、化野が隣にいれば違って見えただろうか?

最期にもう一言、また余計なことを書いた。










『いつか、一緒に見たいな』







一緒に海を見たことなど、幾度かあった。だとうのにどうしてそんなことを書いたのか。
書いてしまった後で後悔する。

さてこの手紙をどうするか。送るのはどうも癪に障る。何故なら彼はこの文を見た途端破顔するだろう。
その顔が目に浮かぶようで、嫌だった。
結局懐に仕舞い込んで、新たに手紙の返事を書くのはやめた。







書いてしまった理由は至極簡単であった。



――ただ、会いたいということだ






   了






―END―

すみません、こ、こ、こんなよくわからない代物で…
駄目な所を挙げていくと…雰囲気があの作品の世界じゃない、手紙のやり取りなのに結局化野の一方通行で終わっている、何か短い…以下略

ですが、エコーさんのお誕生日の贈り物として…おく…汚繰り物として(造語)
すみません;精進します;



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